事業承継税制とは?
多くの中小企業が検討・実施をしている事業承継ですが、「事業承継税制」というのをご存知でしょうか。
事業承継に付随する費用は様々です。少しでも出費を抑えたいのであれば、ぜひ利用してほしい制度になりますので、詳しく解説していきます。
平成30年度の税制改正で特例措置が設けられたおかげで、利用を強く勧められる制度になりました。
事業承継税制とは
事業承継税制とは、事業承継を円滑に進めていくため、会社や個人事業の後継者が得た資産に対して、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
事業承継税制には2種類あり、それぞれ「法人版事業承継税制」「個人版事業承継税制」と呼ばれます。
【法人版事業承継税制】
法人版事業承継税制とは、円滑化法の認定を受けた非上場企業会社の株式等を贈与又は相続する後継者に対して、その納税を猶予する制度です。
平成30年度の税制改正によって、10年間納税猶予の対象制限の撤廃、納税猶予割合の引き上げ等といった特例措置が創設されました。
【個人版事業承継税制】
個人版事業承継税制は、青色申告に関わる個人事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者が個人の事業用資産を贈与又は相続等によって得た場合、一定の条件の下でその納税を猶予する制度です。
事業承継税制の制度改正概要
なぜ平成30年に税制の改正が行われたのか。それは事業承継の積極的な利用になります。
日本の中小企業の経営者は急速な高齢化が進んでおり、後継者不足も深刻化しています。
これを放置していると10年で約22兆円の国内総生産が失われると試算されています。
そんな中、事業承継税制が創設されてから8年ほど経ちますが、制度利用件数は約2,000件程度しかありません。これを解決するために税制の改修が行われました。
この改修により、事業承継税制利用の要件が緩和され、納税猶予の割合も80%程度から100%に引き上げられたことで、全額猶予もしくは免除も可能になりました。
上手く利用すれば大幅なリスクと費用の軽減に繋がるでしょう。
事業承継税制の変更内容
事業承継税制の改正内容は主に6つあります。
- 議決権制限の撤廃
改正前の発行済議決権株式総数の3分の2までが納税猶予対象でしたが、これを撤廃、会社の全株式対象になりました。
- 納税猶予が全額猶予に
改正前の納税猶予の割合は上限が80%で、残りの20%は支払いが必要でした。
改正後は、株式の相続税の全額を納税猶予の対象とし、相続税0円で株式の引継ぎを行うことが出来ます。
- 贈与対象の拡大
改正前の株式対象者は先代経営者の所持株のみでした。しかし、実際に経営者が100%株式を保有していることは少なく、親族と分けて所持していることが多いため、相続税の負担が大きいものでした。
今回の改正により、特例承継期間である5年間の期間中に贈与税の申告をすれば、経営者以外の株主の納税猶予も認められます。
これは親族に限らず適用されますので、必ず特例期間中の申請を行いましょう。
- 後継者人数の緩和
後継者の人数についても1人のみだったのが、最大3人まで可能になりました。
対象の条件は、議決権の10%以上を持ち、順位が一族の中で2位3位であることです。
- 雇用確保についての改正
事業承継後の5年間の平均雇用維持率80%を維持する必要があります。
追加項目として、理由を記載した報告書の提出と都道府県知事からの認定で、継続納税猶予が可能になります。
- 業績悪化による相続税の減免
改正前は、会社更生・民事再生など事実上の倒産の際に猶予されている相続税の免除がありましたが、さらに項目が追加されました。
・直前の3年間の内、2年以上赤字
・直前の3年間の内、2年以上減収
・借金の額が売り上げの半年分以上
・その業種の上場会社の前1年間の平均株価が全前年1年間よりも下落
・特別な理由において
上記の条件の下、業績悪化による株式譲渡、合併吸収の場合、その時点での株価を再計算して差額が免除されます。
上記の税制を利用する場合、令和5年3月31日までに各都道府県に「特例承継計画」を提出、知事の認定を受ける必要があります。
特例承継計画とは、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて会社が作成するもので、記載内容は後継者、承継所の経営見通し等です。
事業承継税制のメリット
事業承継税制の最大のメリットは、相続税の免除が全額になる可能性があることです。
株式は評価額が大きくなるほどに相続税も上がります。
そのため、常に納税財源の確保が必要になり、これがとても困難であるため、免除は相続のリスクを大きく下げてくれる要因でしょう。
また、後継者の人数制限についても特定の条件の範囲で最大3人までの相続税がかからないため、子供や後継者が複数人いる経営者にとっては親族争いの防止に繋がる要因になり得ます。
事業承継税制のデメリット
事業承継税制開始5年間は毎年、継続届出書を各都道府県と納税所に提出しなければなりません。また、6年目以降は3年に1度の提出でよくなるのですが、気を付けなければならないのが、忘れてしまい、未提出になった場合です。この場合納税が確定してしまうので気を付けなければなりません。納税所から通知が来ますので、必ず届出を提出しましょう。
事業承継税制を継続するために守らなければならないルールが細かく設定されています。
5年間の代表取締役継続、株の手放し厳禁、資本金を減らしてはいけないといったものがあり、しっかりと理解しておかないと突然訳も分からず猶予の打ち切りになってしまうケースもあるので、注意しなければなりません。
事業承継税制の手続きの流れ
【特例承継計画の作成】
認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受け、特例承継計画を作成します。項目には、後継者や承継時までの経営見通し、承継後5年間の事業計画などを記載。
【特例承継計画の提出】
記載した特例承継計画を都道府県知事に提出、確認を受ける。
認定申請より前に必ず提出しなくてはならない。
【代表者の交代】
贈与時に先代経営者は退任し、後継者は代表に就任していること。
【先代経営者から株式を贈与】
先代経営者から後継者へ全株式贈与が行われます。
【認定申請】
都道府県知事に翌年の1月15日までに認定申請をし、認定証を受領。
【贈与税申告】
税務署へ贈与税の申告と同時に納税猶予、対象株式を担保提供。翌年の2月1日∼3月日までに行う。
【申告期限から5年まで】
贈与税の申告期限から5年までの間に事業承継継続要件維持に努める。
要件は、後継者が代表者であることと株式の継続保有の主に2つです。
都道府県知事に報告書を税務署に継続届出書を毎年提出。
万が一要件を満たさなくなった場合、猶予税額の全額と利子税を納付する義務が発生します。
【5年経過後】
常時使用従業員数の5年間の平均人数が贈与時の8割を下回っていた場合、理由を認定支援機関の所見と共に報告します。また、5年経過後は、株式保有要件を後継者の相続開始まで維持します。
5年経過から4ヶ月以内に都道府県知事に特例承継計画に関する報告書を提出します。
また、税務署に3年ごとに継続届出書を提出します。
原則として、株式を売却してしまうと、売却分の猶予税額と利子税を納付しなければなりません。
税制の改正によって、業績悪化による売却や他社に吸収される場合には、その時の株価で猶予税額を再計算して納付します。
【贈与者の相続】
贈与者の相続により、相続税の納税猶予に切り替えます。この時、都道府県知事に確認申請、税務署に相続税申告、納税猶予の申請、対象株式を担保提供といったことを行います。
【相続後】
株式保有要件を後継者の相続開始まで維持します。
税務署に継続届出書を3年ごとに提出します。
【後継者の相続】
税務署に免除申請をし、猶予されていた相続税が免除となります。
各要件の一覧
会社 | ・承継法上の中小企業者に該当すること
・税務署に担保を提供すること ・期間内に都道府県知事からの認定を受けていること ・会社の状況を継続的に報告すること ・雇用確保要件を満たすこと |
後継者 | ・承継から5ヶ月を経過した時点で会社の代表者であること
・一族で50%を超える議決権を保有していること ・一族の中で筆頭株主であること(特例の場合は上位3人) ・少なくとも総議決権数の10%を保有していること ・相続の場合は、相続時点で年齢が20歳以上であり、役員就任から3年以上が経過していること |
先代経営者 | ・会社の代表権を有していたこと
・一族で50%を超える議決権を保有していること ・後継者を除き、一族の中で筆頭株主であること ・贈与の場合は、贈与の時点で代表から退くこと |
また、事業承継税制の適用を受けることが出来るのは、「中小企業基本法」において規定された中小企業です。
その他の要件が、①上場会社でないこと②風俗営業会社でないこと③資産管理会社でないこと(一定の要件を満たすものは除く)④従業員が1名以上いることがあります。
また、中小企業者に該当するのは、業種に応じて変わります。
以下の資本金又は従業員数のどちらかを満たしていることで該当します。
業種 | 資本金 | 従業員数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
まとめ
以上「事業承継税制」について説明してきました。
相続税の猶予若しくは免除は細かい要件がたくさんあり、手続きもややこしいものになります。そのため、必ず専門家に相談し、円滑に手続きが行われるようにしましょう。
税制改正によって費用面でのリスク軽減が出来るようになりましたので、事業承継の円滑化に役立てましょう。
特例措置は10年間と決まっており、適用を受けることが出来るのは令和5年までですので、検討中の方は早めの手続きをお勧めします。