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簿外債務とは? 事業承継・M&Aにおける問題点

中小企業の後継者不足に対して、事業承継・M&Aをサポートする取り組みが推進されています。M&Aによる企業買収を進めていく場合に気を付けなければならない点があります。

それが簿外債務です。今回は簿外債務とは何か、どのように気を付けるのかを解説していきます。

簿外債務とは

簿外債務とは簿外負債とも言われ、賃借対照表に計上されない債務のことを指します。

この簿外債務は中小企業の多くが抱えており、M&A相手企業の簿外債務の有無で、億単位の損害が発生するトラブルの発生も起こり得ます。

M&A実施の際には、M&Aアドバイザーや仲介会社が事前に該当資料の提出を指示することが多いので、リスクとなる可能性は低いと言えます。

それでは、簿外債務はどのように発生するのかを見ていきましょう。

簿外債務が生み出される原因

簿外債務の多くは、意図的に賃借対照表に記入されない場合や正確に記入されなかった場合に生み出されます。大きく2つに分けて解説しましょう。

【偶発債務】

簿外債務が意図的に生み出される多くがこれに当てはまります。偶発債務では、現時点では発生していないものの、将来的に債務となる可能性のあるものも含まれます。

偶発債務はこの将来的に債務として発生する可能性を十分に踏まえ、想定して帳簿に反映していくのが基本ですが、この偶発債務が訴訟や土壌汚染を理由に発生するおそれのある債務である場合、問題自体を隠蔽しようとして帳簿に正確に記入しないといったケースがあります。他にも金融商品取引において含み損が発生するおそれや第三者の借金の連帯保証人になったことで発生する債務も偶発債務として当てはまります。

場合によっては億単位の債務の発生に繋がるため、偶発債務は避けなければならないリスクになります。

【飛ばし】

含み損が発生している資産などを他社に売却することでなかったものとすることを「飛ばし」と言います。一般的に「装飾決算」は飛ばしに含まれる行為とされています。

かつての好景気の日本では、この方法は証券会社を間に挟んで頻繁に行われていましたが、91年以降は証券取引法で厳しく制限されたため、ほぼ行われなくなりました。

簿外債務にはどのようなものがあるのか

M&Aで発見される簿外債務の中でも特に頻繁に発見されるものが「退職給付引当金」「債務保証損失引当金」「未払い賞与」などがあります。M&A実施の際には、以下の債務を中心に簿外債務となっていないかを確認するといいでしょう。

【退職給付引当金】

退職金制度を導入している企業は、退職金規程などに定められた要件を充足する場合、「従業員に将来支払う予定の退職金」という債務(退職給付引当金)が発生することになります。しかし、従業員への退職金の支給時に退職金として費用計上している場合には、各事業年度末時点における退職給付引当金が計上されていないことになり、簿外債務が発生しています。特に、多数の従業員を抱えている企業や勤続年数が長い従業員が在籍している場合には、簿外債務が多額となる傾向があるため注意しましょう。

【債務保証損失引当金】

債務保証損失引当金は、主たる債務者によって履行されなかった場合に備えて計上する引当金のことを指します。対象企業が他人や他社の債務について保証している場合、簿外債務として扱われやすくなります。

【賞与引当金】

賞与制度を導入している企業は、「従業員に将来支払う予定の賞与」という債務(賞与引当金)が発生することになります。例えば、3月決算の企業が、支給対象期間が前年12月から当年5月までの賞与を当年6月に支給するとします。従業員に対して当年6月の支給時に賞与として費用計上している場合には、前年12月から当年3月までの期間に相当する賞与について、3月決算時点における賞与引当金が計上されていないことになり、簿外債務が発生しています。

【未払い残業代】

未払残業代は、M&Aのデューデリジェンスで判明することが多い項目の一つです。タイムカードを打刻していない場合など、適切に労務管理がされていないときはもちろん、早朝や休憩時間の取り扱いや〇分単位切り捨ての時間集計、管理監督者の取り扱いなど、企業自身がきちんと管理していると考えていても法令に照らすと残業代となることもあります。その結果、時間外労働の事実があるにもかかわらず時間外手当が支給されていない場合には、いわゆるサービス残業の状態となっており、未払残業代の簿外債務が発生しています。

【未払い社会保険料】

社会保険は正社員だけでなく一定の要件を充足するパート社員も加入することになります。本来、社会保険に加入すべきパート社員について未加入となっている場合には、未払社会保険料の簿外債務が発生しています。

【訴訟リスク】

自社で製造した製品について、訴訟を起こされ敗訴となった場合には、損害賠償義務を負う可能性があります。敗訴が濃厚で損害賠償義務が発生する可能性が高い場合で、金額を合理的に見積もることができるときなどは、会計上、引当金計上が必要となります。必要であるにもかかわらず引当金計上を行っていない場合、損害賠償に関する引当金の簿外債務が発生していることになります。

【債務保証】

売り手企業が他社の連帯保証を行っている場合、債務者である他社が債務を履行していれば問題ありませんが、債務者が債務不履行に陥ったときは、連帯保証をしている売り手企業に債務を履行する義務が生じます。この場合、将来支払い義務が生ずる可能性がある債務となり、広い意味で簿外債務が発生しているととらえることができます。

M&Aにおいて簿外債務はリスク

簿外債務の多くはM&Aでよく見られます。売り手企業は簿外債務を抱えていますが、その事実を開示しない場合はとても危険なM&Aとなるでしょう。どういったリスクがあるか確認していきましょう。

【信頼関係構築が困難】

簿外債務の中には、将来的に実際に支払い義務が生ずる債務も含まれています。

本来、M&Aの売り手企業が自発的にそれらの簿外債務に関する情報を買い手企業に開示することが望まれますが、売り手企業が意図的に隠蔽し、後に買い手企業がその隠蔽したことを認識することとなった場合には、買い手企業は売り手企業に対して不信感を抱かざるを得ません。

M&Aは、買い手企業と売り手企業がお互いに信頼することよって成立する取引です。意図的に簿外債務を隠蔽する企業とは信頼関係の構築が困難であると判断され、M&Aの成立が難しくなるでしょう。

【取得費用が割高】

売り手企業が意図的に簿外債務を隠蔽し、買い手企業がその簿外債務を認識できなかった場合、本来、売り手企業が負担すべき債務を買い手企業はM&A時の株式取得価格から減額するなどの対応策を講ずることができますが、そのような対応ができない場合、買い手企業は売り手企業を割高な価格で取得することになってしまいます。

【訴訟に発展する可能性】

例えば、退職した従業員から時間外労働の事実があったものとして、未払残業代の支給に関する訴訟を起こされることがあります。その場合、買い手企業が売り手企業を株式譲渡の手法により取得していたとき、買い手企業は売り手企業の訴訟案件も引き継ぐことになります。訴訟に発展すると多大な労力や費用を要することに加え、企業の評判も毀損することになりかねません。

簿外債務問題の事例

実際に簿外債務によって問題が発生した事例をみていきましょう。

【簿外帳簿の事例1:シャープ】

2016年、台湾の電気製品を受託生産するEMS「鴻海(ホンハイ)」が日本の大手電機メーカーである「シャープ」の買収を延期したニュースがありました。この買収でシャープの簿外債務の存在が浮き彫りになりました。

シャープが退職金や他社との契約に関する違約金などをはじめとする「偶発債務」が約3,500億円存在するという内容の文書を提示したことで、鴻海は一時的にシャープの買収を延期しました。

【簿外帳簿の事例2:山一証券】

かつて日本の四大証券会社といわれていた「山一証券」は、「飛ばし」により簿外債務を発生させました。

山一証券は、バブル期に他社よりも利回りを保証して営業特金(運用資金)を獲得するという手法で短期間に多額の手数料収入を得ていた企業です。しかし、バブル崩壊が原因となり、山一証券が抱える営業特金は1,000億円を超える含み損を計上してしまいます。

含み損の帳簿への反映により大きな損失を被ることを避けようとした山一証券は、「飛ばし」により簿外債務を発生させて損失隠しを行ったのです。

そして、含み損を全て隠せるだけの「飛ばし先」を確保すべく、山一証券は海外に作ったペーパーカンパニーに損失を移転しました。これは「粉飾決算」にあたります。

この粉飾決算は社会問題に発展し、結果的に四大証券会社といわれた山一証券は1997年、自主廃業に追い込まれました。

【簿外帳簿の事例3:エルエスエム】

物流サービス業者の「エルエスエム」は、2017年に粉飾決算による資金調達が発覚して、最終的に自己破産申請をしました。

エルエスエムは多角化経営に失敗して大きな損失を出した後に資金繰りが厳しくなったために、借入額を過少に見せる粉飾決算を実施して資金繰りを行いました。

エルエスエムの自己破綻申し立て時に提出された負債額は、金融機関に提出されていた数字よりも多く、40億円以上の簿外債務があったことが判明しています。

【簿外帳簿の事例4:オリンパス】

日本の電子機器メーカーの「オリンパス」も、損失隠しのために「飛ばし」を実行して問題となりました。オリンパスは「飛ばし」の手法を用いて10年以上も巨額の損失を隠し続けており(2011年に発覚)、結果的に負債を粉飾決算で処理したために株価急落・会長辞任などの事件に発展しています。

事業承継における簿外帳簿まとめ

以上、簿外帳簿とは何か、事例や概要を紹介しました。事業承継を行う上で、情報の隠ぺいは、どれほど小さいものでも必ず大きな問題に発展してしまいます。簿外帳簿も隠すことで後々大きな負債を抱えてしまう恐れもあるので、気を付けましょう。

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