1. HOME
  2. ブログ
  3. コラム
  4. 事業承継の選択肢を増やす5%ルールの見直し! 銀行の子会社を通じて出資を受けることができるようになった改訂のポイントとは?

BLOG

ブログ

コラム

事業承継の選択肢を増やす5%ルールの見直し! 銀行の子会社を通じて出資を受けることができるようになった改訂のポイントとは?

後継者問題や事業承継で悩んでいる企業が増えつつある中、2019年8月7日、銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令が金融庁から公表されました。これにより、事業承継に係る銀行等の議決権保有制限(いわゆる5%ルール)などを一部見直す銀行法施行規則の改正案が示され、いくつかルールが変更されました。今回は事業承継と5%ルールについて解説します。

5%ルールとは

5%ルールとは、株券などの大量保有の状況に関する開示制度のことです。正式名称は、大量保有報告制度です。

上場企業の発行済み株式数の5%超を保有する株主(大量保有者)は、原則として5%超を保有することになった日から5日以内に、内閣総理大臣に「大量保有報告書」を提出する義務がある、というものです。

大量保有報告制度(5%ルール)の目的は、市場の透明性を高めることにあります。
企業同士の提携や買収などを目的として、相手企業の株を大量に買った場合、個人投資家に伝わらずに不公平にならないように、誰が・どのくらいの量を買っているのかを公開することで、市場の透明性を高めるようになりました。

大量保有報告書は、企業のIR情報のページや適時開示情報には掲載されていませんので、金融庁のEDINETを活用する必要があります。

また、大量保有者には保有割合が1%以上増減した場合に「変更報告書」の提出義務が生じます。なお、これとは別に、独占禁止法による「5%ルール」というものも存在します。
これは、企業支配を防止するため、金融機関は他の国内の企業の発行済み株式数の5%(生命保険会社は10%)を超えて取得することが原則禁じられているというものです。

M&Aの世界での「5%ルール」

M&A(Mergers and Acquisitions;合併と買収)とは、資本の移動を伴う企業の合併と買収を指した言葉のことです。
狭義的な意味のM&Aにおいては、吸収合併・新設合併などの企業の「合併」と、株式譲渡、新株引受、第三者割当増資、株式交換などの手段を通じた会社・事業の「買収」を指します。

M&Aの世界で「5%ルール」という場合、以下の通りに分かれます
・金融商品取引法(証券取引法)の大量保有報告制度で通称「5%ルール」と呼ばれるもの
・私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)の議決権保有規制の「5%ルール」

この独占禁止法の「5%ルール」には例外規則が設けられており、一般事業会社の再生支援の局面では、銀行・保険会社の議決権保有規制が例外的に許可されます。

独占禁止法第11条において、銀行または保険会社は国内の一般事業会社の総株主の議決権の5%(保険会社は10%)を超えて保有等することを原則として禁止しています。
ただし、議決権保有規制は、銀行持株会社とその子会社が合算して取得・保有できる議決権の上限は15%と定められています(15%ルール)。

禁止の理由は以下の通りです。
・銀行・保険会社による事業支配力の過度な集中を防止するため
・銀行・保険会社と一般事業会社との間で議決権保有による密接な関係が生じると、融資に偏りが生まれて、一般事業会社間で競争上の問題が発生することを防止するため

この規制は銀行法にも定められています。しかし、独占禁止法が単体規制のみであるのに対して、銀行法での議決権保有規制は銀行とその子会社も合算して、一般事業会社の議決権の5%を超えて保有等することが禁止されています。

なお、議決権保有規制には例外があります。議決権保有等が可能になるのは以下の通りです。
・あらかじめ公正取引員会の認可を受けた場合
・適用除外事項に該当する場合

この考え方は公正取引委員会の「独占禁止法第11条の規定による銀行又は保険会社の議決権の保有等の認可についての考え方」に基づいたものです。

あらかじめ公正取引員会の認可を受けた場合に該当するケースは以下の通りです。

・認可を申請する銀行又は保険会社により総株主の議決権の5%超の議決権を保有等されることとなる株式発行会社の業績が不振であり、申請会社が株式発行会社の総株主の議決権の5%超の議決権を保有等することが、株式発行会社の信用を維持するために必要であると認められるケース(株式発行会社が清算中又は清算予定である場合を含む)
・申請会社は、その保有等する株式発行会社の議決権のうち5%を超える部分に相当する株式を市場で売却することとしているが、超過額が大きく、市場での売却に相当の期間を要すると考えられるケース
・株式発行会社の株式が上場されていない等、株式発行会社側の状況により、申請会社がその保有等する株式発行会社の議決権のうち5%を超える部分に相当する株式を市場で売却することが困難であり、相対で株式を売却しなければならない場合であって、超過額が大きく、売却に相当の期間を要すると考えられるケース(条例等により株式の譲渡制限がある場合を含む)

上記に該当しない申請についても、以下の点を考慮し、個別に認可の可否が検討されます。

・申請会社による議決権の保有等の必要性
・当該議決権の保有等による申請会社の事業支配力増大のおそれの有無及びその程度
・株式発行会社の属する市場における競争への影響

適用除外事項に該当する場合には、以下の事項が該当します。

・担保権の行使による株式の所有等
・代物弁済の受領による株式の所有等
・自己の株式の取得
・信託財産としての株式の所有等
・他の国内の会社の事業活動を拘束するおそれがない場合として公正取引委員会規則で定める場合(債権の株式化[DESによる議決権保有で、1年超保有は承認制]による議決権保有)

DESとは「Debt(債務)」と「Equity(株式)」を「Swap(交換)」することをいいます。
経営不振や過剰債務などに苦しむ企業の再建支援策の一つであり、一番多いケースが、債権を保有する金融機関等が融資(貸出金)の一部を現物出資する形で株式を取得することです。金融機関等にとっては、貸出金(一部または全部)を回収できなくなるものの、将来再建に成功して企業価値が高まれば、株式から配当を受けたり、株式の売却によって利益を得たりする可能性も出てきます。

業績不振会社の再建のためや担保権の実行、DES等の事由により取得した株式など会社の再生支援のためであれば、一時的に銀行・保険会社が一般事業会社の議決権保有をすることが許可されている、ということがこれらの例外からわかります。

2019年に見直された5%ルール

2019年8月7日、銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令が金融庁から公表されました。事業再生、地域活性化事業及び事業承継に係る銀行等の議決権保有制限(いわゆる5%ルール)などを一部見直す銀行法施行規則の改正案が示され、いくつかルールが変更されています。
その内、銀行が投資専門子会社を通じて子会社とすることができる会社の範囲に、事業承継会社を追加したことが事業承継に係る分野における変更点の目玉といえるでしょう。

具体的に改訂された内容は以下の通りです。
・銀行が、投資専門子会社を通じて子会社とすることができる会社の範囲に、いわゆる事業承継会社を追加
・事業再生会社を銀行本体が子会社にできる場合の要件の緩和
・地域活性化事業会社についての議決権保有制限の例外措置(投資専門子会社を通じた出資)の緩和など

今回の改正では、子会社の範囲規制の例外として、「経営の向上に相当程度寄与すると認められる新たな事業活動を行う会社として内閣府令で定める会社」を、一定期間、投資専門子会社を通じて子会社とすることが認められました。

さらに「代表者の死亡、高齢化その他の事由に起因して、その事業の承継のために支援の必要が生じた会社であって、当該事業の承継に係る計画に基づく支援を受けている会社」が改正案に基づく銀行法施行規則17 条の2 第7 項9 号に加わりました。
ただし、同第11 項に保有期間は、原則として取得日から5 年を経過する日と定められています。

そのため事業承継会社は、事業承継ファンドだけでなく、銀行の子会社を通じて出資を受けることができるようになりました。支援を受けるためには、「承継に係る計画」がポイントとなり、事業承継計画策定が重要となってくるでしょう。

すでにメガバンクや一部の銀行はこの動きに対応しています。
今後はダイレクトにM&Aをやるのではなく、ワンクッション銀行の子会社化を受けいれた後に、M&Aや第三者承継という選択肢も出てくるでしょう。

2020年の5%ルール見直しのポイント

2020 年12月22日、金融審議会銀行制度等をワーキング・グループが報告を取りまとめました。
従来の議決権取得等規制の大枠は維持しつつ、例外的に銀行が投資専門会社を通じて5%を超えて議決権を取得等することができるベンチャービジネス会社、事業再生会社、事業承継会社などの要件を緩和することが、出資規制(議決権取得等制限)の見直しとして提言されています。

今回の5%ルール見直しのポイントは以下の通りです。

・担保権の実行など例外措置あり、銀行持株会社の場合は原則 15%上限
・事業再生の局面などにおいて優越的地位の濫用や利益相反取引のおそれが高まる懸念に留意し、投資専門会社において顧客利益を保護するための体制を適切に整備することが求められている
・銀行・銀行グループが「新たな事業分野を開拓する会社」か否かを個別に判断する枠組みとすることを想定している
・厳密には「子法人等」に該当しない範囲で議決権の取得等が可能
・業務範囲規制や出資規制などを見直す。コンサルティング業務等を追加
・常勤研究者数などに関する画一的な数値基準は撤廃
・民事再生法の再生計画認可決定等が要件
・第三者が関与して策定された経営改善・再生計画も可
・5 年上限
・10 年上限(事業再生と同程度まで緩和)
・50%上限(非上場のものについて)
・最大100%の議決権取得を認める

まとめ

事業承継と5%ルールについて解説してきました。以下、まとめになります。

・独占禁止法による「5%ルール」とは、金融機関は他の国内の企業の発行済み株式数の5%(生命保険会社は10%)を超えて取得することが原則禁じられているというもの
・2019年の5%ルールでは、銀行が投資専門子会社を通じて子会社とすることができる会社の範囲に事業承継会社が追加された
・2020年の5%ルール見直しでは、例外的に銀行が投資専門会社を通じて5%を超えて議決権を取得等することができるようになった

2019年と2020年に見直された5%ルールにより、事業承継会社は事業承継ファンドだけでなく、銀行の子会社を通じて出資を受けることができるようになりました。後継者問題や事業承継で悩んでいる企業が増えつつある中、5%ルール改訂は事業承継会社にとって選択肢を増やすものになるでしょう。

関連記事