事業承継を行う際、5つのステップで円滑に
経営者が会社や事業を後継者に引き継ぐ事業承継は、長期に渡る準備期間を必要とします。中には準備が複雑なため、何をしたらいいのかわからずに諦めてしまう人もいます。そこで中小企業庁は、円滑に事業承継が行えるように「事業承継ガイドライン」を策定し、5つのステップに分けて事業承継の流れを示しています。
今回は、事業承継ガイドラインに載っている5つのステップを紹介します。
事業承継とは
事業承継は、会社の経営を後継者に引き継ぐことを指します。
日本では中小企業を経営する経営者の年齢が高齢化傾向にあり、後継者不足に悩んでいるという声がとても多いです。一般的には、親族や社内の人材から後継者を決定しますが、場合によっては、第三者に会社もしくは事業を引き継ぐM&Aといった手法も用います。
【事業承継で承継するもの】
事業承継は、株式の承継や経営者の交代をするだけではありません。事業(会社)が所有する様々な経営資源をも承継する必要があります。
経営資源には「人」「資産」「知的資産」の3要素があります。
1「人」の承継
人の承継とは、ここでは「経営権」を指します。規模の小さな会社であるほど、ノウハウや取引先との関係が経営者個人に集中していることが多いので、事業の運営には経営者の資質が直接的に関わってきます。
経営権を後継者に引き継ぐ際には、十分な育成を行い、経営者として手腕を発揮できるようにしておきましょう。
2「資産」の承継
資産の承継は、事業を行うのに必要な資産を承継することを指します。資産には、経営者が所有する株式や事業用資産(設備や不動産)、資金(運転資金・借入等)などがあり、承継には税負担が必要になりますので、可能な限り税負担を配慮した承継方法を考える必要があります。
3「知的資産」の承継
知的資産は、無形の資産を指します、無形の資産は、会社の競争力の源となる強みのことです。人材や技術、技能、知的財産(特許・ブランド)、組織力、経営理念・顧客との繋がりなどが知的資産として挙げられます。知的資産を正しく承継するには、経営者と後継者との間で、自社の強みや価値がどこにあるのかを理解し、すり合わせなければなりません。
【事業承継の引継ぎ先】
事業承継は、主に「親族内承継」「役員・従業員への承継」「第三者への承継」の3つに分かれます。それぞれみていきましょう。
「親族内承継」
現経営者の親族に承継します。他の承継方法と比べて社内外の関係者から心情的に受け入れやすい傾向にあり、後継者を早くから決めておくことで、たっぷりと時間をかけた育成や準備が出来ます。相続により財産や株式を後継者に移転できるため、所有と経営の一体的な承継が期待できるメリットがあります。
「役員・従業員への承継」
親族に事業承継する企業は減少傾向にあり、後継者選びに悩んでいる企業は増えています。
そういった場合、社内の優秀な社員・従業員に承継する方法があります。自社株はオーナーが保有したまま社長の地位を従業員に譲るというパターンもあります。
経営者としての能力を持っている人材を見極めて後継者に選定することが出来、長く勤続している従業員であれば、企業理念や経営方針を熟知しており、一貫性を保てるというメリットがあります。
「第三者への承継」
親族や社内外で後継者を見つけることが出来ない場合や競合相手に事業を譲りたい場合に利用するのがM&Aを利用した承継方法です。
この方法は、近年増加傾向にあり、M&Aを円滑に進めるためのアドバイザーやマッチングサイトも増えてきています。近くに後継者候補がいない場合、広く募集できることと会社売却による利益を得ることも可能です。
事業承継ガイドラインとは
事業承継ガイドラインは、事業承継を行う企業経営者向けの説明書です。
日本企業の約9割が中小企業で、日本経済を支えています。しかし、近年は経営者の高齢化が急速に進んでおり、後継者不足がその原因として挙げられています。後継者が見つからなければ、その企業は廃業へと追い込まれてしまうでしょう。
中小企業が持つ独自の技術やノウハウを長く保存していくため、事業承継を円滑に行う目的で中小企業庁が2016年に策定しました。
内容は、事業承継の方法や対策、流れといった基本的な項目を網羅しています。
一般的に事業承継ガイドラインに沿って進めていくことで円滑に事業承継を行うことが可能です。
事業承継ガイドライン概要
事業承継ガイドラインは約100ページにも及ぶ内容になっており、全6章で構成されています。本題の事業承継5つのステップは、第2章に掲載されています。
第2章は後で紹介しますので、第2章以外をそれぞれみていきましょう。
【第1章:事業承継の重要性】
中小企業の事業承継に関する危機感や重要性が具体的なデータに基づいて解説されています。実際に事業承継を計画的な取り組みで行った企業の成功事例も載っていますので、事業承継について漠然としたイメージしか持てていない人は、事業承継を良く知るきっかけになることでしょう。
【第2章:事業承継に向けた準備の進め方】
第2章は、次の見出しで紹介します。
【第3章:事業承継の類型ごとの課題と対応策】
第3章では、親族内での承継・従業員への承継・社外への承継(M&A)の3つの類型に分けて、課題と対応策を紹介しています。
事業承継に関わる税金についても触れていて、贈与税や相続税、事業承継税の活用方法などが記載されています。
【第4章:事業承継の円滑化に資する手法】
第4章では、事業承継を円滑に進めるための種類株式・信託・生命保険といった3つの手法を紹介しています。種類株式の活用方法は、後継者に普通形式、その他の相続人には議決権制限株式を相続させることで、遺留分減殺請求によって議決権が分散してしまうリスクを抑えることが出来ます。信託活用では、経営者の自己株式管理権限を持つ受託者を後継者とすること等が挙げられます。生命保険の活用は、生命保険金の受取人を後継者とすることで、相続税の非課税制度の適用を受けつつ、納税資金の準備をすることなどが挙げられます。
【第5章:個人事業主の事業承継】
ここでは、個人事業主向けの事業承継方法を紹介しています。
個人事業主であっても会社形態と同じ課題を抱えていて、経営者の名前で取引先や顧客との契約関係を持ち、事業用資産を所有している点が会社形態と大きく異なる点になります。
形式的には、経営者が廃業届を提出し、後継者が開業届を提出することで事業承継となります。
【第6章:中小企業の事業承継をサポートする仕組み】
事業承継はガイドラインを読んだからといって、1人でやり切れるものではありません。
最終章では、事業承継をサポートしてくれる商工会議所や商工会の経営指導員、税理士、弁護士、公認会計士、事業承継アドバイザー、事業引継ぎ支援センターなど様々な機関、専門家の紹介が記載されています。
一人では、分からないことでも専門家が手を貸してくれます。活用を検討してみてください。
第2章:事業承継5つのステップ紹介
それでは、事業承継5つのステップについて紹介していきます。
事業承継5つのステップ
【ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識】
後継者育成や事業承継に必要な資料準備等に必要な時間を考慮し、経営者が60歳に達した頃に事業承継を行えるのが望ましいとされています。
60歳を超えても経営に携わっている経営者がいますが、その場合もすぐに専門家に相談し、事業承継に着手するべきです。事業承継はとにかく早い段階での準備がとても重要であるという認識を持ちましょう。
【ステップ2:経営状況・経営課題の把握(見える化)】
事業を後継者にスムーズに引き渡すには、自社の経営状況や経営課題、経営資源等を見える化し、正確に把握することが大切です。専門家の力を借りて正確な状況を把握しておきましょう。このデータは企業の価値に直結するため、重要な項目です。
【ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)】
経営者は経営改善に努め、より良い状態で後継者に事業を引き継ぐことが望ましいとされます。事業承継の前には経営改善に取り組み、最大限に磨き上げを行うことで、事業を引き継ぎたくなるようにします。
磨き上げの対象は、業績改善・経費削減・商品やブランドのイメージアップ・優良な顧客や金融機関、株主との良好な関係等があります。効率的に磨き上げを行うためには、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
【ステップ4-1:事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)】
会社の10年先を見据えて、いつ・どのように・何を・誰に継承するのかを具体的に計画として立てましょう。
【ステップ4-2:M&A等のマッチング実施(社外への引継ぎの場合)】
後継者を見つけることが出来ないため、親族や従業員以外の第三者に事業を引き継ぐ場合には、買い手とのマッチングを行います。M&Aアドバイザーや仲介会社を利用しましょう。
【ステップ5:事業承継の実行】
ステップ1∼4を行い、現状把握や課題の改善を行いつつ、事業承継計画・M&A手続き等に沿って資産の移転や経営権の移譲を実行します。
法律や難しい手続きが多いため、公認会計士や税理士、弁護士といった専門家に依頼するのが一般的です。指示を仰ぎながら経営者が行うことも可能です。
事業承継5つのステップまとめ
以上、事業承継を円滑に進めるために中小企業庁が策定した「事業承継ガイドライン」の事業承継5つのステップについて紹介しました。
基本的にこのガイドラインの流れに沿いながら専門家や仲間の協力の下、早い段階での事業承継準備を進めていきましょう。事業承継は長期的な準備が必要になり、正確な計画を立てることが大切です。これを機にぜひ事業承継について検討してみてください。