「プッシュ型事業承継高度化事業」は事業承継ネットワークの一つ!国による事業承継の支援内容とは?
経営者の高齢化や後継者不在の状況は深刻です。特に、新型コロナウイルス感染症などの影響により、2020年の休廃業などの件数が過去最多となる5万件弱になりました。そのため、今後一層強力な事業承継・引継ぎを進めなければいけません。後継者不足など、事業承継に悩む中小企業に対して、国はさまざまな制度・事業を整備しています。プッシュ型事業承継高度化事業もその一つです。今回は事業承継ネットワークの一つであるプッシュ型事業承継高度化事業など、事業承継に悩む中小企業などに対して国が支援している内容などについて解説します。
事業承継ネットワークとは
事業承継ネットワークとは、中小企業庁が資金面を援助する形で中小企業の事業承継をサポートする取り組みのことであり、日本全国のさまざまな機関・団体がこの事業に取り組んでいます。事業承継ネットワーク内で、親族内承継の支援を実施している業務を「プッシュ型事業承継高度化事業」といいます。
プッシュ型事業承継支援高度化事業の支援内容
プッシュ型事業承継支援高度化事業の支援内容は以下の通りです。
事業承継診断
事業承継に向けた準備の必要性や重要性を認識してもらうために、身近な支援者である事業承継ネットワーク構成機関が中心となって、事業承継診断を実施します。
個別相談などの個者支援
承継コーディネーターなどが地域の支援機関と連携し、企業訪問などからの個別相談や事業承継計画策定による課題整理を無料で実施します。
専門家派遣
多岐に渡る事業承継課題に、専門的な知識や経験を持つ士業者などの専門家を無料で派遣し、課題解決に向けた適切な指導・助言を実施します。
セミナー開催
事業承継の意欲喚起を図って、中小企業の事業承継を推進するため、事業承継事例や事業承継対策説明などのセミナーを開催します。
経営者保証業務
中小企業の事業承継にとって、後継者候補が経営者保証を理由に事業承継を拒否するなど、経営者保証は大きな障害となります。その対策として以下のような経営者保証業務を行います。
- 事業承継時の経営者保証解除に向けた「経営者保証コーディネーター」による支援制度創設
- 「経営者保証に関するガイドライン」の充足状況確認
- 各支援機関等との連携による経営の磨き上げ支援
- 専門家派遣を通じた金融機関との保証解除交渉(目線合せ)支援
- 経営者保証コーディネーターの確認により保証料大幅軽減など
事業承継ネットワークの目的
事業承継ネットワークの目的は、世の中の経営者に対して、事業承継に関する様々な支援による「気づきの機会」を提供し、その準備を促すことです。
経営者は事業承継ネットワークを利用することで、公的機関や金融機関などを通して積極的なサポートを受けることができ、スムーズな事業承継が進められるようになります。
事業承継について何から手をつければいいのかわからない経営者にとって、事業承継ネットワークは非常に心強い味方といえるでしょう。
事業承継ネットワークは様々な事業承継施策の一つ
現在、高齢の経営者が増えた影響などで事業承継ができない中小企業や小規模事業者を放置すると以下のような問題が生じると予想されています。
- 中小企業や小規模事業者の廃業が急増
- 国全体で多数の雇用を失う
- 中小企業の倒産により、国が巨額な経済損失を被る
経営者の高齢化は深刻な状況まで発展しているため、政府は事業承継税制をはじめとした様々な対策を立てています。事業承継ネットワークもその一つであり、様々な施策実施の影響で、事業承継をスムーズに進められる環境は徐々に整いつつあります。
事業承継ネットワークに参加している複数の事業・団体の分類
事業承継ネットワークの最大の特徴は、様々な機関・団体がネットワークを築き、中小企業をサポートすることです。中小企業の事業承継は、経営者の求めているニーズがケースによって異なります。参加している事業・団体は大きく3つに分けることができます。
役割 | 参加機関・団体 | 概要 |
計画の立案役 |
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地域の事業承継支援策を立案する全体の取りまとめ役 |
事業承継診断等の実施役 |
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中小企業に対して、事業承継診断などを実施 |
その他支援策の実施役 |
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実際の事業内容は、各自治体が取りまとめ役なので地域によって違いがあります。そのため、事業承継に悩み相談したい中小経営者は会社が存在する地域の自治体の情報を確認しましょう。
事業承継ネットワークの事業内容
事業承継ネットワークの事業は以下の通りです。
都道府県における事業承継支援体制の整備と情報発信
事業承継支援体制の整備とは、中小企業支援を目的としたネットワークを構築する事業のことです。都道府県を主体として、事業承継支援のあり方を検討し、実現するための組織構築を行います。関係者間での認識共有を行うことで、最終的に都道府県が知己再編・統合の旗振り役になることを目指しています。
また、地域によって実際の取り組みは異なりますが、各都道府県の事業承継ネットワークはポータルサイトや成功事例集作成などの事業承継支援に関わる情報発信に取り組んでいます。有益で最新な情報が発信されている可能性があるので、事業承継が気になる中小経営者はぜひチェックしておきましょう。
事業承継診断の実施(PDCAサイクル)
事業承継ネットワークは、経営者のニーズを掘り起こす手段として、「PDCAサイクル」を強く意識した形で事業承継診断を行います。事業承継診断の流れは以下の通りです。
- Plan(計画):準備段階として、事業承継ネットワーク内の支援機関が診断を実施できるよう、フォーマットなどを作成
- Do(実行):準備が整ったら事業承継診断を実施し、さらに支援を行うための仕組みを構築
- Check(評価):事業承継診断の実施結果を集約し、地域内における支援状況を検証
- Action(改善):検証結果を公表し、再び「事業承継診断の準備」へと戻る
強化されたPDCAサイクルによる事業承継診断を繰り返し行うことで、事業承継に悩む経営者のニーズを掘り起こし、きめ細やかなサポートや対応を行うことが可能となり、各当地域の支援状況は少しずつ充実していくでしょう。
事業承継・引継ぎ支援センターとは
事業承継・引継ぎ支援センターとは、親族内や第三者を問わず事業承継のワンストップ支援を行う公的相談窓口です。
従業員承継や第三者による事業引継ぎを支援してきた「事業引継ぎ支援センター」と、おもに親族内承継を支援してきた「事業承継ネットワーク」の「プッシュ型事業承継高度化事業」を統合し、2021年4月から全国47都道府県でスタートしています。
主に親族への事業承継や後継者不在などにより事業存続に課題を抱えている中小企業・小規模事業者の相談全般に対応することで、円滑な次世代への経営資源のスムーズな承継を支援しています。
事業引継ぎ支援センターとは
事業引継ぎ支援センターとは、2011年に国によって全国の都道府県に設置され、後継者不在の中小企業・小規模事業者と譲受を希望する事業者とのマッチング支援を行う機関です。支援の一環として、後継者不在の小規模事業者と起業家をマッチングする「後継者人材バンク事業」も2014年度から開始しています。
事業承継系のM&Aは増加しつつありますが、後継者不足の企業数からするとまだ件数が少ないという課題を持っていました。
事業承継・引継ぎ支援センターの特長
事業承継・引継ぎ支援センターは事業承継対策未着手でも、M&A成約一歩手前でも、事業承継の進め方や承継までにやるべきことなどをアドバイスし、必要に応じて他の支援機関との連携を図ってくれます。事業承継・引継ぎ支援センターの特長は以下の通りです。
- 中小企業庁の事業として、商工会議所、都道府県が設置した財団など、国が認定した支援機関が実施
- 承継コーディネーターを責任者とし、経営者に身近な支援機関によるネットワークを作成する
- エリアコーディネーターを配置し、支援機関の事業承継診断を実施し、経営者の課題や事業承継支援ニーズを掘り起こす
- エリアコーディネーターが整理した支援ニーズ先の課題を、承継コーディネーター経由で課題に応じた支援担当につなげる
- 利害関係のない中立的な立場でアドバイスを実施し、業務に精通した相談内容には守秘義務を負ったセンター相談員が無料で対応
- 民間のM&A専門業者や金融機関もセンターの登録機関になっているので、別途費用は発生するが必要に応じて士業などの専門家(当該登録機関)紹介(取次ぎ)
- 後継者不在などの場合は、第三者承継支援担当が譲渡の支援と株価の算定方法などのアドバイスや譲受候補先マッチングの支援、M&A専門業者を含むM&Aに精通した専門家の紹介など、後継者探しのサポートを行う
- 後継者不在などにより第三者への事業承継を検討する事業者だけでなく、第三者からの譲受けを検討する買い手事業者の相談にも対応しており、条件やニーズが合致する事業者がいる場合には譲受候補先として紹介
- 親族承継を検討する場合は、事業承継計画の策定支援を通じて、具体的な行動を示したロードマップを後継者とともに検討する
- 何から準備すべきかわからない事業者には、事業承継・引継ぎのタイプ別の特徴、メリット・デメリット、手続きの流れの説明し、会社の現状に照らした課題抽出などのアドバイスを行う
まとめ
事業承継ネットワークやプッシュ型事業承継高度化事業など、事業承継に悩む中小企業などに対して国が支援している内容などについて解説してきました。以下まとめになります。
- 事業承継ネットワークとは、中小企業庁が資金面を援助する形で中小企業の事業承継をサポートする取り組みのことであり、その内、親族内承継の支援を主に実施している業務を「プッシュ型事業承継高度化事業」という
- 2021年4月に事業承継ネットワークの「プッシュ型事業承継高度化事業」と「事業引継ぎ支援センター」を統合し、全国47都道府県に「事業承継・引継ぎ支援センター」を設置し、スタートしている
- 事業承継・引継ぎ支援センターは事業承継対策未着手でも、M&A成約一歩手前でもアドバイスし、必要に応じて他の支援機関との連携を図ってくれる
事業承継に悩む中小企業は、プッシュ型事業承継高度化事業と事業引継ぎ支援センターを統合した「事業承継・引継ぎ支援センター」を相談など活用することで、センターからアドバイスや他の支援機関との連携などをしてもらいます。しかし、実地する自治体によって事業内容が異なります。そのため、事業承継に悩み相談したい中小経営者は会社が存在する地域自治体の情報を確認、情報収集に取り組むなど、各自治体の情報を早めで積極的にチェックしておきましょう。