事業承継の手段の一つIPOとは?検討したら早めに専門家へ相談しよう!
事業承継には「親族内承継」と「親族外承継」があります。日本の中小企業のほとんどは親族内承継を行っていましたが、近年ではM&Aを利用した第三者への親族外承継を行う場合が増えつつあります。非上場企業が第三者へ事業承継を行う場合、自社株式の評価額が高くても、上場していないので売ることができず、評価額を下げて節税対策や後継者の資金繰りに苦労する場合があります。そんな時に有効なのがIPO(株式公開)であり、IPOは事業承継の手段の一つです。
IPOとはどのようなものなのでしょうか。今回は事業承継とIPOについて解説します。
IPOとは
IPO(Initial Public Offering;初めての自社株式の不特定多数の投資家への販売)とは、自社株を市場に公開し、自由に売買ができるよう証券取引所に上場することです。非上場企業で自社株の評価額が高い場合、節税対策や後継者の資金繰り対策など、事業承継に有効な手段です。
非上場企業の株式譲渡にかかる税金について下記の記事にて詳しく解説しています。併せてお読みください。
IPO実現には以下のような注意点があります。
- 準備が数年単位
- 内部統制構築やIFRSにかかる作業など、周到な準備と経費が必要になる
- 「資本戦略」(どの段階で、誰からどのように資金を調達するかなど)が非常に重要
そのため、IPOによる事業承継を検討する場合、税理士、会計士、弁護士などの専門家に早めに相談しましょう。
IPOのメリット
IPOのメリットは以下の通りです。
一時的に自社株の評価額を下げて、納税対策につなげることができる
1つ目は「一時的に自社株の評価額を下げて、納税対策につなげることができる」ことです。
株式公開することで自社株を市場の売買が可能になるので、以下のようなことができるようになります。
- 自社株を売却して納税資金にあてる
- 売却した資金を役員退職金にあてるなど
一部を現金化して経費支払や事業承継がスムーズにできる
2つ目は「一部を現金化して経費支払や事業承継がスムーズにできる」ことです。
株式公開をして売却することで一部を扱いやすい現金にしてから継承することができます。それにより、自社株を全て保有したまま継承するよりも、納税や上場後にかかる経費の支払いにもすぐに対応可能であり、スムーズな事業承継ができるでしょう。
知名度、信頼性が高くなるので優秀な後継者候補が集まり、ビジネスチャンスが増える
3つ目は「知名度、信頼性が高くなるので優秀な後継者候補が集まり、ビジネスチャンスが増える」ことです。
中小企業庁によると、後継者不足によって2025年までに黒字倒産する可能性がある企業数は約60万社になる可能性があるといわれています。しかし、株式公開をすると、知名度が上がり優秀な人材が集まるようになるため、より優秀な後継者候補をその中から選ぶことができます。
また、信頼性が高くなるので、ビジネスチャンスも増え、事業拡大がしやすくなり、銀行からの融資なども受けやすくなります。
IPOのデメリット
IPOのデメリットは以下の通りです。
株式公開実現には様々な条件があり、満たすためには各種経費が必要になる
1つ目は「株式公開実現には様々な条件があり、満たすためには各種経費が必要になる」ことです。
株式公開を実現するには、証券取引所が定めた様々な条件を満たさなければいけません。そのため、相応の準備が必要であり、内部統制構築やIFRSにかかる作業、専門家への報酬など、その準備自体に各種経費が必要となります。
公開後は当該部門のシステム構築や経費の用意も必要になる
2つ目は「公開後は当該部門のシステム構築や経費の用意も必要になる」ことです。
株式公開後は有価証券報告書や決算書の提示・発表しなければいけないため、当該部門のシステム構築や経費の用意も必要となります。
株主に乗っ取られる可能性があるので対策を打たなければいけない
3つ目は「株主に乗っ取られる可能性があるので対策を打たなければいけない」ことです。
株式公開とは、自社株の一部を複数の株主と共有することになります。そのため、経営権が創業関係者以外にも分散されることになります。そうなると株の買い占めによる経営権を乗っ取ろうと考える株主も出てくる可能性があり、後継者が事業承継後そのようなケースに巻き込まれないように対策を打って置く必要があります。
IPO実現までのスケジュール
IPO実現には監査証明が2期分必要なので「最低2年はかかる」と言われていますが、実際には短期でのIPO実現は難しく、様々な関門が待ち受けています。準備期間として3~5年は見ておきましょう。IPO実現までのスケジュールの流れは以下のとおりです。
- 監査法人によるショートレビュー
- 監査法人との監査契約
- 証券会社と主幹事契約
- IPO申請
ショートレビューとは、短期調査、予備調査、クイックレビューとも言われており、企業が上場の意思決定をした際に監査法人が行う企業調査の一つであり、上場準備を進めるにあたっては必要不可欠です。ショートレビューでは、上場基準からみた以下のような対応すべき山積みの事項を整備する上で、課題の洗い出しを短期間で調査します。
- 業績向上
- 事業計画の策定
- 資本政策
- 財務基盤
- 内部統制構築
- 労務管理
- 法務管理など
監査法人の人手不足などにより、探すためにインターネットを検索し、上から1つずつ電話をしていくくらいの気持ちでないと契約できないといってもいいほど、監査契約を結ぶことは非常に難しくなっています。監査法人に選ばれる企業になるには、ショートレビューを受ける時、監査法人の指摘に真摯に対応し、改善していく姿勢が重要となります。
地方企業の上場準備の注意点
地方企業の上場準備の注意点は以下の通りです。
IPO実現は特別な企業だけではなく、すべての企業に可能性がある
1つめが「IPO実現は特別な企業だけではなく、すべての企業に可能性がある」ことです。
首都圏以外の地域では、老舗大企業や地域密着型の地元で愛される企業などが数多く存在するにもかかわらず、IPOを目指そうとする企業は多くありません。なぜなら、IPOは一部の急成長しているベンチャー企業が目指しているものであって、ハードルが高いという先入観があるからです。
しかし、2020年にマザーズに上場した会社(63社)のうち、売上高20億円未満の会社は全体の約半数で、さらに売上高10億円未満の会社は17社あり全体の27%程度を占めていました。
また、市場はマザーズだけではないので、自社に適した市場選択をすることも、IPO実現にとって重要です。
地方証取は地元の企業を応援してくれるため、上場後も継続して企業を盛り立ててくれます。またステップアップ市場としての魅力もあり、地方証取の新興市場に上場した多くの企業が地方証取の本則市場及び東証に上場を果たしています。
市場選択の視野を広げることでIPO実現の可能性が高まりつつあるので、IPO実現は特別な企業だけではなく、すべての企業に可能性があるといえるでしょう。
IPOによる事業承継はタイミングが慎重
2つ目は「IPOによる事業承継はタイミングが慎重」です。
同族経営の地方企業で、ご子息への事業承継とIPOを検討されていた企業がありました。IPOを実現すると株価が未上場時より高くなるため、事業承継をするタイミングをいつにするか、慎重に検討し、以下のような準備をしました。
- 徐々に親族から株を集約
- 業績が下がったタイミングを見計らって後継者に事業承継で株を譲渡
- その後業績が回復したタイミングでIPO実現
ただし、事業承継は経営承継だけでなく、同時に株の承継でもあるので、タイミングを慎重に判断しなければ莫大な税金を後継者が背負うことになるのでご注意ください。
IPO支援専門家がいないので首都圏企業の方が有利
3つ目は「IPO支援専門家がいないので首都圏企業の方が有利」なことです。
現在、地方企業と首都圏企業での情報格差も埋まり、どこにいてもIPOに関する情報を得ることが可能です。Web会議などで遠隔で対応すれば、場所による有利不利性もなくなっていくでしょう。
しかし、地方企業では上場を達成した企業や、IPOを気軽に相談できるIPO支援専門家がが周囲におらず首都圏に比べると不利に感じるかもしれませんが、地方証取が開催する勉強会があり、オンラインセミナーも実施しているのでぜひいってみましょう。
IPO準備で最も重要なこと
IPO準備で最も重要なことは、IPO経験の豊富なコンサルタントなど、信頼できるIPO支援専門家と出会い、早い段階で相談することです。上場経験のないメンバーでも勉強会を重ねながら進めていけば、少しずつ紆余曲折あっても上場を果たすことはできますが、IPO支援専門家に支えてもらった上で実行したほうが圧倒的に効率的であり、間違いがありません。
また、社内にIPO経験者がいなくても、IPO支援の専門家によるコンサルティングを受けていると、監査法人などともコミュニケーションが取りやすくなる可能性があります。そのため、早い段階で信頼できるIPO支援の専門家に相談することは、IPO準備で最も重要であり、実現への近道といえるでしょう。
まとめ
事業承継とIPOについて解説してきました。以下まとめになります。
- IPOとは市場へ自社株式を公開し上場することであり、非上場企業の自社株評価額が高い場合、節税対策や後継者の資金繰り対策など、事業承継に有効な手段になる
- IPO実現は周到な準備と経費が必要であり、準備期間として3~5年はかかるなど難しいので早めに専門家へ相談する
- IPOによる事業承継は、タイミングを慎重に判断しなければ莫大な税金を後継者が背負うことになるが、特別な企業だけではなく、すべての企業にも可能性がある
IPO実現には年単位の準備期間が必要であり、解決すべき山積みの事項が立ちはだかります。しかし、オンライン会議ツールの発展によるWEBセミナー開催などの遠隔対応や、地方企業と首都圏企業での情報格差も埋まりつつあり、どこにいてもIPOに関する情報を得ることが可能なので、IPO実現のハードルは下がってきているといえるでしょう。
しかし、IPO支援専門家に支えてもらった上でIPOによる事業承継を実行したほうが圧倒的に効率的であり、間違いがありません。そのためには、信頼できるIPO支援専門家と出会い、早い段階で相談するようにしましょう。事業承継の一つの手段としてIPOを検討してみてはいかがでしょうか。