事業承継の贈与税を免除する方法とは? 特例事業承継税制を利用して税金ゼロで後継者に負担なく承継しよう!
事業承継を検討する際、株式の贈与税や相続税による、後継者への税金負担は大きな悩みになります。そのため、後継者が見つからず事業承継が行えない中小企業も少なくありませんでした。そこで計画的な後継者への事業承継を促すために、税負担の軽減につながる「特例事業承継税制」が作られました。特例事業承継税制を利用すれば、後継者に贈与・相続の「税金ゼロ」で自社株式を承継することができます。今回は事業承継の贈与税免除について解説します。
事業承継税制とは
2009年4月1日に租税特別措置法が改正され、中小企業の後継者が先代経営者からの贈与、相続または遺贈により取得した非上場株式等に係る贈与税・相続税の一部を納税猶予する「事業承継税制」が作られました。
納税猶予を受けた中小企業は、5年間の雇用維持を始めとする事業継続要件を満たす必要があり、一定の要件を満たしている場合に限り猶予税額が免除されます。
その後、中小企業の事業承継をさらに力強く後押ししていくために、「平成30年度税制改正」で事業承継税制の「特例事業承継税制(特例制度)」が新たに作られました。
特例事業承継税制を利用すると、株式承継にともなう贈与税・相続税の納税を一時的に猶予、あるいは免除してもらうことが可能になります。
さらに、納税猶予の対象となる「総株式数の3分の2まで」という非上場株式等の制限撤廃、対象株式納税猶予割合を80%から100%へ引上げ、猶予割合も100%となりましたので税負担が「実質ゼロ」となります。
特例事業承継税制は、2018年1月1日から、2027年12月31日の「10年間限定」の制度です。現行制度と特例制度は同時に存続します。
贈与税がゼロになる仕組み
贈与税がゼロになる仕組みは以下の通りです。
①先代経営者から後継者が自社株式を贈与される
②特例事業承継税制を使うと相続税が「納税猶予」される
③先代経営者が死亡した場合、猶予されていた贈与税が免除される
④特例によって得た自社株式は、先代経営者死亡により「相続によって取得したもの」とみなされる。そのため「贈与時の評価額」で他の相続財産と合算され、相続税の課税の対象となる
⑤相続税は発生するが、この段階で特例事業承継税制に切替えると、相続税が「納税猶予」される
⑥後継者が死亡、あるいは次の後継者に特例事業承継税制を使って株式贈与した場合、納税が免除される
一般事業承継税制と特例事業承継税制の違い
2009年から続いている一般事業承継税制と、2018年4月から導入された特例事業承継税制は同時に存在しますので、適用を受ける際には違いを理解しておくと良いでしょう。一般事業承継税制と特例事業承継税制の違いは以下の通りです。
2023年までに特例承継計画提出が必要
1つ目は「2023年までに特例承継計画提出が必要」なことです。
特例事業承継税制の適用を受けるには、2018年4月1日から2023年3月31日までに、都道府県庁に「特例承継計画」を提出し、確認が必要です。
特例承継計画の提出後、すぐに贈与を行う必要はありません。贈与予定がなくても、いざという時のために特例承継計画を提出しておいてもいいでしょう。
事業承継による相続・贈与期間が異なる
2つ目は「相続・贈与期限を超過した場合、一般事業承継税制適用になる」ことです。
特例承継計画を提出しても、2018年1月1日から2027年12月31日までに相続・贈与を実際に行わなければ特例事業承継税制の適用を受けることができず、期限超過後は一般事業承継税制適用となります。
また、2017年12月31日以前に贈与・相続等により株式を取得した場合、特例制度の認定を受ける、あるいは通常の認定から特例の認定へ切り替えることはできません。
ただし、一般措置の認定を受けた場合でも先代経営者の配偶者など先代経営者以外の株主からの株式の贈与・相続において、認定後5年間の有効期間内に申告期限が到来するものに限り、追加で認定を受けることができるようになりました。
対象となる株式範囲が違う
3つ目は「対象となる株式範囲が違う」ことです。
一般事業承継税制
・納税猶予の対象となるのは発行済議決権株式総数の3分の2に達する部分まで
・相続税の納税猶予制度における猶予割合は80%
・事業承継税制適用時でも、最大で約53%(2/3×80%)しか猶予対象にならない
特例事業承継税制
・無議決権株式などを除いた発行済株式の全株式が納税猶予対象
・相続税の猶予割合も100%に引き上げ
・株式承継の贈与時・相続時の現金負担はゼロになる
相続のときの猶予対象評価額が異なる
4つ目は「相続のときの猶予対象評価額が異なる」です。
・一般事業税制:対象株式の「評価額の80%」が猶予される
・特例事業承継制:対象株式の「評価額の100%」が猶予される
株式贈与において後継者の数が異なる
5つ目は「株式贈与において後継者の数が異なる」ことです。
株式を贈与できる人は、一般事業承継税制も特例事業承継税制も複数株主ですが、後継者の場合異なります。これによって、会社の経営状態に応じた柔軟な事業承継を行うことができるようになりました。
・一般事業承継税制:筆頭株主である代表者ひとり
・特例事業承継税制:後継者3名まで
雇用確保要件の有無
6つ目は「雇用確保要件の有無」です。
・一般事業承継税制:5年平均の従業員数が贈与時の80%を下回った場合、猶予税額の全てを納税
特例事業承継税制:5年平均80%を下回っても引き続き猶予を受け続けることができますが、下回った理由などを記載した実績報告書を認定経営革新等支援機関の確認を受けたうえで、都道府県庁に提出
経営承継期間以降に廃業や第三者へM&Aで会社売却した場合
7つ目は「相続・贈与時から5年後以降に株式の譲渡、解散があった場合」です。
後継者が最初に事業承継税制の適用を受ける贈与税または相続税の申告期限の翌日から5年間を経営承継期間といいます。
・一般事業承継税制:民事再生や会社更生のときに、その時点の評価額で相続税・贈与税を再計算し、超える部分の納税猶予額が免除
・特例事業承継税制:経営環境の変化に該当する場合、廃業時の株価やM&Aの売却価額などで承継したものとして猶予税額の再計算をし、当初猶予税額との差額が免除
相続時精算課税の適用対象
8つ目は「相続時精算課税の適用対象」です。
・一般事業承継税制:推定相続人ひとりのみが適用
・特例事業承継税制:推定相続人以外も適用
事業承継税制で贈与税免除適用を受けるための要件
事業承継税制で贈与税免除適用を受けるために満たす必要のある要件は以下の通りです。
会社の要件
1つ目は「会社の要件」です。
事業承継税制で贈与税免除適用を受ける対象会社の要件は、「中小企業基本法」で規定された以下のような「中小企業」であることです。
・上場会社でない
・風俗営業会社でない
・資産管理会社でない(一定の要件を満たすものはのぞく)
・従業員が1名以上いる
中小企業該当条件は業種ごとに異なり、資本金、従業員数はどちらかを満たせばよいことになっています。
後継者の要件
2つ目は「後継者の要件」です。
事業承継税制の贈与税の納税猶予・免除の適用を受けるためには、贈与時に後継者が次のすべての要件を満たさなければいけません。
・会社の代表者であること
・20歳以上で、贈与の直前において「3年以上役員」であること
・後継者および親族など同族関係者が保有する株式が50%を超えること
・後継者が同族関係者の中で筆頭株主であること
・相続により取得した株式を1株も譲渡せず、継続して保有すること
先代経営者の要件
3つ目は「先代経営者の要件」です。
先代経営者の要件は全て満たさなければいけません。
・ 会社の代表者であり、贈与時までに代表者を退任していること
・ 先代の経営者および親族などの同族関係者保有株式が50%を超えていること
・ 先代経営者が同族関係者のなかで筆頭株主であること
担保の要件
4つ目は「担保の要件」です。
担保とは、具体的にいうと納税猶予の対象となる非上場株式そのものや、不動産、有価証券などです。
納税が猶予される相続税額・贈与税額および利子税の額に見合う担保を税務署に提供しなければいけません。
事業承継税制活用のメリット・デメリット
事業承継税制活用のメリット・デメリットは以下の通りです。
事業承継税制活用のメリット
事業承継税制活用のメリットは以下の通りです。
・対象株式贈与税・相続税の納税が猶予になり、最終的には「税金ゼロ」になる
・高額な相続税や贈与税が支払わずに済むので、納税資金用意の必要性がなくなる
・特例は10年間と期間限定なので、それを口実に後継者から先代経営者に、事業承継を言いやすく、促しやすい
事業承継税制活用のデメリット
事業承継税制活用のデメリットは以下の通りです。
・納税猶予期間が極めて長期間におよぶ
・認定が取り消された場合のリスクが存在する
・取消事由に該当すると、猶予税額に加えて、利息に該当する利子税も支払わなければならない
・非常に複雑な制度であるにもかかわらず、経験豊富な税理士がほとんどいない
まとめ
事業承継の贈与税免除について解説してきました。以下、まとめになります。
・2009年の税制改正で中小企業の事業承継を力強く後押ししていくために、10年間限定の「特例事業承継税制(特例制度)」が新制定された
・事業承継税制では、2009年開始の一般事業承継税制と、2018年4月から導入の特例事業承継税制があり、この2つは同時に存在する
・株式承継にともなう贈与税・相続税の納税が猶予あるいは免除になり、対象株式の100%、猶予割合も100%となったので、最終的には「税金ゼロ」になる
事業承継は、だいたい5年から10年程かかります。贈与税・相続税免除になる特例事業承継税制の適用を受けるには、2023年3月31日までに「特例承継計画」を提出し、要件を満たした状態で、2027年までに実際事業承継による贈与・相続を行わなければいけません。
事業承継税制は、高額な自社株式の場合ほどメリットが非常に大きなものになります。せっかく事業承継の贈与税免除ができる制度があるのに先送りしてしまうと、税金をゼロにする機会を見逃してしまいます。
事業承継で贈与税免除を望む場合は、事業承継に精通した税理士や専門家に相談し、継続的なサポート受けることで早め早めに対策を行いましょう。