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事業承継ガイドラインは中小企業の事業承継を支援するスタンダード

事業承継ガイドライン

中小企業・小規模事業者は雇用の担い手、多用な技術の担い手として日本の経済・社会を支えています。中小企業の活力を維持するには、後継者が事業価値をしっかりと引き継ぐ円滑な事業承継が必要となります。しかし、経営者の高齢化など様々な原因により、円滑な事業承継ができず、倒産という最悪の形で終わってしまう中小企業も少なくありません。そのため、中小企業庁は「事業承継ガイドライン」を策定しました。今回は事業承継と事業承継ガイドラインについて解説します。

事業承継のガイドラインとは

事業承継ガイドラインとは事業承継支援のスタンダードとなるものです。中小企業・小規模事業経営者に事業承継の課題を知ってもらうことを目的とし、円滑な事業承継のために以下のような必要な取組、活用ツール、注意ポイントなどを紹介しています。

  • 事業承継に向けた早期取組の重要性(事業承継診断の実施)
  • 事業承継に向けて踏むべき5つのステップ
  • 地域における事業承継支援体制の強化の必要性

また、中小企業・小規模事業者支援機関・団体、金融機関、自治体関係者、士業等の専門家が日々の業務の中で活用できるよう想定し、かなり実務的で詳細な内容を盛り込んでいます。

事業承継ガイドライン改訂

2022年3月17日、中小企業庁は改訂した事業承継ガイドラインを発表しました。前回の改訂は2016年であり、約5年ぶりの改訂となります。

2016年の改訂以降、中小M&Aの支援策が拡充されていきましたが、経営者高齢化やコロナ禍により事業承継を後ろ倒しにしたり、廃業したりする中小企業が増加していきました。また、従業員後継者による承継が近年増加しているなど、今回の改訂ではこのような変化を踏まえ、以下のような内容が改訂されました。

  • 事業承継に関連する状況の変化などを明らかにするため、掲載データに新設・拡充などされた施策などを反映・更新
  • 法人版事業承継税制、個人版事業承継税制、所在不明株主整理関連特例などの支援措置について、詳細な説明を更新・追加
  • 事業承継関連の支援策一覧を別冊で新たに用意
  • 増加しつつある従業員承継や第三者承継(M&A)に関する説明の充実
  • 事業者にヒアリングを行い、後継者の選定・育成プロセス(後継者候補との対話、後継者教育、関係者の理解・協力等)などについての内容の充実
  • 第三者承継(M&A)について、2021年3月に策定された「中小M&Aガイドライン」の内容を反映
  • 現在の経営者立場からの説明だけでなく後継者目線からの説明など

現在の経営者立場からの説明だけでなく後継者目線からの説明とは具体的に以下のようなものです。

  • 事業承継の実施時期が後継者にとっては遅い傾向にあること
  • 事業承継によって企業の売上高や利益が成長する傾向にあること
  • 事業承継に向けた経営改善の段階で、後継者候補と協力して実施することの有効性など

中小PMIガイドライン

事業承継ガイドライン改訂と同時に、「中小PMIガイドライン」も新たに策定されました。

中小PMI(Post Merger Integration)ガイドラインとは、中小企業におけるM&Aによって引き継いだ事業の継続・成長に向けた統合やすり合わせ等の取組など、M&A後の統合作業の「型」を取りまとめたものです。第三者承継(M&A)の譲受側などを主な読み手として想定していますが、親族内承継や従業員承継の後継者にとっても有用と考えられています。

 中小PMIガイドライン発表後、中小企業庁と一般社団法人中小企業診断協会はこの公表を踏まえ、2022年度からの事業承継・引継ぎ支援センターと中小企業診断協会の連携に向けて以下の支援への取り組みを共同宣言しました。

  • 士業等専門家との連携
  • 地域の実情に応じて中小企業診断士を紹介
  • 中小企業診断士に対するガイドライン理解促進の枠組みの導入
  • PMIに関するセミナーや研修等の実施
  • 事業承継・引継ぎ補助金などによる支援
  • 経営資源集約化税制による支援
  • お互いの業務遂行に必要な範囲でPMI支援を行う専門家育成など

事業承継の5つのステップ

事業承継ガイドラインでは、以下のステップを経て事業の見直しなどを行うことが求められています。

必要性の認識

1つ目は「必要性の認識」です。

まずはじめに、事業承継に向けた早期・計画的な準備着手の必要性を事業承継を行う経営者が認識することが求められます。何故なら、事業承継を行うためには準備期間として5年~10年近くの年月がかかるからです。何から手を付ければいいのか分からない場合は、税理士に相談したり、事業承継等のセミナーに参加して知識をつけることから始めましょう。

経営課題などの把握

2つ目は「経営課題などの把握」です。

必要性を認識できたら、過去の業績推移や事業資産などの洗い出し、経営課題などを把握しましょう。税理士会などで公表されている「中小企業の会計に関する指針」などを活用しつつ、会社の現状を正確に把握し、事業承継に関する課題を透明化していきましょう。

経営改善(磨き上げ)

3つ目は「経営改善(磨き上げ)」です。

経営課題などの把握が終わったら、次は事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)を行います。本業の競争力強化・経営体制の総点検・経営強化に資する取組などの経営改善を現在の経営者が行なうことで、後継者が後を継ぎたくなるような経営状態へ引上げていきましょう。

後継者への承継計画

4つ目は「後継者への承継計画」です。

すでに後継者が決まっている場合、現経営者は事業承継計画策定に基づき、自社株などの事業用資産や代表権の承継時期を記載した事業承継計画を後継者とともに策定します。後継者はこの時までに、セミナーや書籍等を通じて予備知識をつけておくようにしましょう。

また、後継者がおらず社外への事業承継を選択する場合は、公認会計士などの専門家やM&A専門会社、事業引き継ぎ支援センターなどを活用し、事業承継先のマッチングを通じてM&Aなどを実施します。

事業承継実施

5つ目は「事業承継実施」です。

最後に事業承継の実施を行い、完了です。

事業承継に関する専門知識を持った士業専門家

事業承継に関する専門知識を持った代表的な士業専門家について紹介します。

税理士

税理士とは、税務代理や税務書類の作成、税務相談を業務として行う士業です。企業との税理士顧問契約を通じて日常的に経営者との関わりが深く、決算・申告支援等を通じ経営や企業内情にも深く関与しています。M&Aのスキル不足はありますが、税制に関する専門知識があるので、事業承継を検討し始めた際は税理士に相談してみましょう。

弁護士

弁護士は、経営者の法律の代理人として、経営者と共に利害関係者へ事業承継に関連する法的な観点からの説明・説得を行います。弁護士に依頼することで、道筋が明確になり、自社の問題点・方向性が定まり、株式相続などに関する問題も解決できます。

また、後継者育成や社内研修などの人材育成や取引先や金融機関との関係を円滑に次の世代へ引き継ぐ作業なども行ってくれます。そのため、事業承継の準備を円滑に進めることが可能となるでしょう。

公認会計士

公認会計士の中には税理士資格保有者もいるので、会計・監査だけでなく、税務支援や税務相談も可能です。社外への引き継ぎによるM&Aなどのマッチングを行う場合、公認会計士は財務デューデリジェンスの役割を担います。

また、親族相続での相続対策や第三者承継に必要な現状分析やスケジュール立案、事業承継先の選定、事業承継先との交渉、株式譲渡など、事業承継の様々な場面で広い見識に基づく支援が期待できるでしょう。

司法書士

司法書士は商業登記、不動産登記などの実務家です。事業承継の相談をした際、株式および事業用不動産の承継、M&A、株式および民事信託の活用、担保権の処遇などについてサポートをしてくれます。 

中小企業診断士

中小企業診断士とは、経営全般関連知識を認める唯一の国家資格者であり、「中小企業支援法」に基づき、中小企業のホームドクターとして様々な経営課題への対応や経営診断などに取り組んでいる人のことです。事業承継に強く、豊富なコンサルティング実績がある中小企業診断士に相談すれば、事業承継診断や事業承継計画の策定支援、後継者教育支援、磨き上げ支援など、ポスト承継支援のほか、M&A関連支援が期待できるでしょう。 

事業承継士

事業承継士とは、一般社団法人事業承継協会に資格認定された人のことです。

課題のヒアリング・整理を行った事業承継プランナーから引き継ぎ、専門力を生かして相続対策や節税対策だけでなく、弁護士や公認会計士等の専門家をコーディネートしながら、全体最適を目指して支援を行います。そのため、事業承継の悩みを相談する相談先として効果的です。ただし、高度なM&A関連相談には対応できない可能性があるので、併せて他の専門家にも相談しましょう。

事業承継診断とは

事業承継診断とは、事業承継に向けた計画的な作業着手を経営者自らが検討するきっかけを提供する取組で、事業承継ガイドラインにも掲載されています。

主に事業承継を行う会社の将来像、具体的な事業承継の進め方、方針、経営課題などについて、金融機関の営業担当者や商工会・商工会議所等の担当者が顧客企業等を訪問する際、診断票に基づく対話を通じて促します。

事業承継診断のために時間を割くのではなく、日頃の支援活動の中で実施するなど、極力簡潔で短時間、計画的な方法で事業承継への準備着手が求められています。弁護士、税理士など専門分野が異なる様々な支援者が情報を共有しながら進めていくのがよいでしょう。

まとめ

事業承継ガイドラインについて解説してきました。以下まとめになります。 

  • 事業承継ガイドラインとは、中小企業経営者が事業承継の課題を知ることを目的とした取組、活用ツール、注意ポイントなど、事業承継支援のスタンダードとなるもの
  • 事業継承ガイドラインは、2022年3月17日に事業承継関連状況変化を明確にするため、掲載データに新設・拡充などされた施策などを5年ぶりに反映・更新など改訂された
  • 事業承継は時間がかかるため、事業承継診断で経営者に早期検討・準備を促し、弁護士、税理士など専門分野が異なる様々な支援者が情報を共有しながら進めていくのが良い

中小企業の円滑な事業承継ができず、倒産数が増えていくと失業者増加など、日本経済全体の停滞につながる可能性があります。そのため、現経営者の会社状況把握や整理だけでなく、後継者教育など5~10年はかかるとされている事業承継を、事業承継ガイドラインを元にして早期に動き出すことをオススメします。

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