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銀行は事業承継ニーズ企業の力強い味方?金融機関は様々な事業承継サービスを展開している

事業承継と銀行

新型コロナウイルス感染症により、中小企業の経営環境はさらに厳しいものとなり、政府は実質無利子・無担保融資や資本性劣後ローンといった金融支援、各種補助金・給付金などの事業継続支援策を行いました。その結果、中小企業の倒産件数抑制に一定の効果はありましたが、一部の中小企業では抱える債務が増大しました。今後金融面から中長期的に中小企業の事業継続を支えるためには債務への政策的対応と金融機関などによる事業承継支援などの充実が必要となります。

銀行は事業承継に悩む経営者に対してアドバイスを行ってくれる力強い相談相手です。今回は事業承継を求めている企業に対して銀行が担う役割や実際に行っている事業内容などについて解説します。

事業承継において主に銀行が行っていること

事業承継における銀行の役割は「経営者の相談相手」です。銀行は事業承継相談に悩む経営者に対して主に以下のことを行っています。

事業承継に向けた準備への必要性認識を啓発・相談

1つ目は「事業承継の必要性認識の啓発や事業承継にまつわる経営相談」の役割です。

中小企業の規模によって、事業承継について何をしたらいいのかわからないという経営者は少なくありません。銀行はそれぞれの悩みやケースに寄り添いながら事業承継への啓発と、事業承継にまつわる経営相談として個別相談、事業承継セミナーを行っています。

  • 個別相談:窓口タイプと営業タイプがある。2021年4月1日~23日実施の金融庁による「企業アンケート調査の結果」によると、M&Aなどを活用した第三者承継の相談先はメインバンクが最も多い
  • 事業承継セミナー:事業承継の手続方法、後継者育成方法、事例をベースとした学習など

参照:金融庁「企業アンケート調査の結果」(https://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/shiryou/questionnaire/210830/01.pdf)

事業承継にまつわる経営相談は事前相談が可能

事業承継にまつわる経営相談内容は以下のとおりです。

  • 事業承継候補の選出
  • 事業承継候補との交渉の仲介
  • 事業の立て直しのアイデア・方法
  • 少しでも税金がかからないで自社株を相続する方法
  • 事業承継を行うまでの経営方法
  • 会社整理・倒産手続きの具体的な方法
  • 相続を行うときの税金対策など

たとえば、事業承継で自社株贈与や自社株相続を行う場合、自社株評価の株評価算定結果によっては最大55%と、想像以上に税金を収めなければいけません。しかし、事前に銀行へ事業承継の相談を行っておけば、自社株評価を下げる方法を教えてもらうことができます。

事業承継にまつわる経営相談は事前相談が可能です。事前に行うと融資返済を迫られないか、中止にされないかと不安になるかもしれません。しかし、銀行にとって経営者が変わることはM&Aの買い手を紹介するチャンスに繋がりますので、そういったことにはなりません。

事業承継の計画策定と経営状況などの現状把握支援

2つ目は「事業承継の計画策定と経営状況などの現状把握支援」です。

銀行は、事業承継の必要性を啓発・相談で認識した経営者に現状把握と計画策定の支援を行います。計画策定支援の内容は以下のとおりです。

  • 経営状況や経営課題、資源などの見える化による正確な現状把握
  • 専門家派遣などを行い経営改善など

2019年には、東京都が専門家派遣の費用を負担する「地域金融機関による事業承継促進事業」が立ち上がりました。この制度を利用した銀行による支援事業件数は順調に伸びており、中小企業への事業承継啓発活動は官民連携で取り組むことも重要といえるでしょう。

M&Aの買い手紹介

3つ目は「M&Aの買い手紹介」です。

事前相談を経て実際に事業承継サービスを利用した経営者に対して、銀行はM&Aの買い手紹介を行います。基本的に銀行傘下にある証券会社をM&A仲介会社として雇用するよう紹介することが多いです。買い手が見つかれば手続きに沿って資産の移転や経営権移譲が行われます。

事業承継を銀行に相談するメリット

銀行に事業承継の事前相談をする価値は非常に高いです。そのメリットを紹介します。

M&Aの買い手候補の情報を集めることが可能

1つ目は「M&Aの買い手候補の情報を集めることが可能」なことです。

銀行には企業経営者だけでなく、会社を譲り受けたい(M&Aの買い手)と相談に来る場合もあります。そのため、自然と銀行にはM&Aの売り手と買い手の情報が集まり、事業承継に関して事前相談に行くことで、どのような買い手が自社事業を求めているのかなど、様々な買い手候補の情報を集めることができます。

事業承継関連の経営知識や税金対策などの知識を得ることが可能

2つ目は「事業承継関連の経営知識や税金対策などの知識を得ることが可能」なことです。 

銀行は事業承継以外にも経営者の相談役として様々なサポートを行っています。そのため、事前相談を行うことで事業承継関連の経営知識や税金対策などの知識を得ることができます。

事業承継を銀行に依頼する際の注意点

後継者不足やM&Aを検討する経営者に、銀行はM&Aの買い手(後継者)紹介など事業承継サービスを提供しています。しかし、M&Aの買い手(後継者)紹介は銀行と銀行が紹介したM&A仲介会社の間でビジネスが成立していることは少なくありません。

仲介会社(買い手)がM&Aを行う際、資金調達の必要性があるため銀行を利用し、銀行は仲介会社に融資を行います。そのため、銀行は経営者(売り手)より買い手の利益を優先してしまい、「利益相反」の問題が浮かび上がります。

銀行に事業承継から経営管理、税金対策などを事前相談するだけではサービスを利用したことにはならないため、余計な仲介会社を紹介されることはありません。銀行の利用はアドバイスや情報収集に留めておき、事業承継に関するM&Aを行う時は銀行よりも以下のような専門家に依頼するほうが良いかもしれません。

  • 専門M&Aアドバイザー
  • 税理士
  • 公認会計士など

金融機関のサービスに対して企業が実際感じているアンケート結果

金融庁は地域金融機関などをメインバンクとする中堅・中小規模企業約3万社に、2022年2月21日から3月25日の期間アンケート調査への協力を依頼し、10,867社から回答(回答率約36%)を得て、2022年6月30日に結果を発表しました。

金融機関に企業の経営上の課題や悩みを相談した全体の割合は以下の通りです。

  • 課題や悩みをよく聞いてくれる、把握してくれる:79.3%
  • 分析結果や評価をよく伝えてくれる:61.5%
  • 伝えられた分析結果や評価に対してとても納得感がある:68.9%

今後金融機関から受けたいサービスは以下のとおりです。

  • 取引先・販売先の紹介
  • 各種支援制度の紹介や申請の支援
  • 経営人材の紹介
  • 業務効率化(IT化・デジタル化)に関する支援など

この結果から、金融機関は企業から売上や利益改善に直結サービスだけでなく、資金面にとどまらない様々な支援や高い付加価値提供などが求められているようです。

参照:金融庁「企業アンケート調査の結果」(https://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/shiryou/questionnaire/220630/01.pdf)

地域金融機関による事業承継促進事業

東京都は地域金融機関と連携し、事業承継にかかわる課題の洗い出しから解決策立案、事業承継実現に必要な資金調達までの取り組みを一貫して支援する「地域金融機関による事業承継促進事業」を2019年7月1日から開始しました。

この事業では一般社団法人東京都信用金庫協会及び一般社団法人東京都信用組合協会が、東京都の補助金を活用して実施しています。

参加金融機関は2022年4月時点で全45金融機関であり、内訳は以下のとおりです。

  • 信用金庫(28金庫)
  • 信用組合(13組合)
  • 地方銀行(4行)

事業承継促進事業の内容

事業内容は以下のとおりです。

  • 都内に事業展開する信用金庫・信用組合・地方銀行の営業店ネットワークを活用
  • 金融機関職員が企業を訪問してヒアリングを行い、承継に向けた課題を抽出・整理
  • 専門家の無料派遣(8回まで)や中小企業制度融資により、承継計画の策定から実行までを経営・資金面からパッケージで支援

事業承継促進事業の支援の流れ

支援の流れは以下のとおりです。

  1. 地域金融機関の職員が都内中小企業を訪問し、事業承継の必要性を説明し、不安や課題を伺い、専門家活用を含めた支援の方向性を一緒に検討
  2. 「会社・事業の将来」についての方向性を整理するため中小企業診断士などの専門家を無料派遣し、承継計画づくりをサポート
  3. 地域金融機関が事業承継計画の実行に必要な資金の融資相談に対応、または東京都や国などによる経営課題解決のための支援メニューを紹介

参照:東京都産業労働組局「地域金融機関による事業承継促進事業」(https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/kinyu/yuushi/jigyousyoukei/)

実際に銀行が行っている事業承継支援サービス

実際に銀行が経営者に対して展開している事業承継支援サービスは以下のとおりです。

事業承継コンサルティング(経営承継+自社株式承継)

1つ目は「事業承継コンサルティング(経営承継+自社株式承継)」です。

事業承継の全工程をサポートするコンサルティングの流れは以下のとおりです。

  1. 相談と現状把握
  2. 承継の検討と準備
  3. 承継計画の策定
  4. 承継計画の実行サポート)
  5. 承継計画完了後の経営支援

様々な形態のM&Aのサポート

2つ目は「様々な形態のM&Aのサポート」です。

  • 事業承継型M&A(後継者が親族や社内にいない場合第三者へ事業を譲渡)
  • 成長戦略型M&A(事業規模拡大のニーズに合致した企業を銀行経由のネットワークから紹介し、マッチングからクロージングまで一環してサポート)

上記のような様々な形態のM&Aのサポートの流れは以下のとおりです。

  1. 相談・情報共有
  2. M&A戦略支援
  3. マッチング
  4. 基本合意・交渉・調査
  5. 最終契約・クロージング

事業承継ファンド

3つ目は「事業承継ファンド」です。

事業承継ファンドとは、出資者による出資や運用を受けた銀行設立ファンドが、事業承継ニーズを持っている企業に対して事業承継に必要な資金投資や様々な経営支援を通じて、企業の取引先である地域企業の企業価値向上に取り組むことを事業目的とし、地域企業の事業継続や発展からキャピタルゲインを得ることです。

まとめ

事業承継を求めている企業に対して銀行が担う役割や実際に行っている事業内容などについて解説してきました。以下まとめになります。

  • 銀行は事業承継をしたい経営者にとって相談役であり、現在様々な事業承継・M&A支援サービスや事業承継ファンドなどを展開している
  • 金融庁のアンケート結果から、金融機関は企業から売上や利益改善に直結するサービスだけでなく、様々な支援や高い付加価値提供などが求められている
  • 東京都は2019年7月から地域金融機関と連携して事業承継を一貫支援する「地域金融機関による事業承継促進事業」を開始している

事業承継ニーズのある企業に対して銀行が担う役割は「経営関連相談役」です。事業承継の必要性の啓発や相談を行い、融資だけではなく、今後日本の経済状況に合わせた様々な事業承継サービス展開が求められています。国からの支援もあり、銀行への事前相談は無料なのでぜひこの機会に銀行へ事業承継相談を検討してみてはいかがでしょうか。

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