事業承継の非上場株式譲渡の税金は複雑!専門家に相談する前に基本知識を知っておこう
事業承継時における税金は、上場企業でも非上場株式でも、譲渡益に所得税などの税金がかかります。非上場株式の譲渡(売却)の課税関係は複雑で、売手と買手の対象が個人か法人かによって課税の種類や額が異なります。事業承継において非上場株式譲渡にかかる税金にはどんなものがあるのでしょうか。今回は事業承継と非上場株式譲渡の税金について解説します。
非上場株式とは
非上場株式とは、証券取引所に上場しておらず、限られた人しか取引できない株式のことです。基本的に多くの中小企業で採用され、経営者やその親族が保有しています。譲渡のタイミングは決まっておらず、相続や事業承継以外の時でも可能ですが、個人的な取引になるため、非上場株式保有者とつながりやコネがなければ譲渡は基本的にできないでしょう。
事業承継における非上場株式の譲渡側・譲受側のメリットとデメリット
事業承継における非上場株式の譲渡側と譲受側のメリットとデメリットは以下のとおりです。
譲渡側のメリットとデメリット
非上場株式譲渡側のメリットとデメリットは以下のとおりです。
- メリット:債権者保護手続きを行う必要がないため、M&Aや、株主総会での特別決議などの手続きが非常にシンプル
- デメリット:評価額に計算式を用いて算出するため、算出を間違えると売却益が小さくなる可能性がある
譲受側のメリットとデメリット
非上場株式譲受側のメリットとデメリットは以下のとおりです。
- メリット:非上場株式の譲渡で成立するM&Aであれば、譲受側における株主総会の特別決議を行う必要がなく、手続きが非常にシンプルでスムーズに進む
- デメリット:包括承継なので、M&Aの交渉が成立すると譲渡会社のトラブルも引き受ける必要がある
後悔しないためにデューデリジェンス実施は必要
非上場株式の譲受によるM&Aでは譲渡会社のトラブルも引き受けなければいけないので、必ずディーデリジェンスを丁寧に実施しましょう。そうすることでリスクを一気に減らすことができます。デューデリジェンスについて詳しい内容は「ディーデリジェンスの記事タイトル名」にありますので、合わせてお読みください。
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内部リンク:「デューデリジェンスの記事タイトル名」
非上場株式の価値評価について
非上場株式の価値評価方法はいくつかありますが、主な種類を紹介します。
配当還元方式
1つ目は「配当還元方式」です。
配当還元方式は、1株当たりの配当金額と資本金をもとにする算出方法です。
- 会社の非上場株式を会社の経営に関係ない人たちが持っている時に使用される
- 類似業種比重方式と純資産価額方式に比べ、評価額が小さく出る
- 株式の払戻額が小さくなり、余計な金額を払う必要がない
- 売却益を高くするための計算方法としてほとんど使用されない
類似業種比重方式
2つ目は「類似業種比重方式」です。
類似業種比重方式は、自社と同じ業種の会社の株式価格を参考にして、評価額の算出す方法です。
- 客観的な視点で非上場株式を評価できるので、算出された価格を参考にM&Aの契約額の交渉ができる
- M&Aを行う企業が小規模、または特殊な業界企業のM&Aの時に非上場株式の評価額を正確に算出できない
純資産価額方式
3つ目は「純資産価額方式」です。
純資産価額方式は、その会社の純資産額をもとにして非上場株式の評価額を決める算出方法です。
- 最もわかりやすい計算方法なので、ほとんどのM&Aの計算方式として採用されている
- 財務諸表に記載されている資産しか評価できない
- ヒトやノウハウなどは評価されていないため、売り手側が損をする可能性が高い
非上場株式譲渡時に発生する税金
非上場株式譲渡時に発生した利益は課税対象であり、現経営者が非上場株式を譲渡する際、課せられる可能性がある主な税金は以下の通りです。
譲渡所得税
1つ目は「譲渡所得税」です。
譲渡所得税とは、上場株式、非上場株式関係なくの譲渡によって得た利益(譲渡所得)に課税される税金のことです。2022年の譲渡所得への税率は20.315%です。譲渡所得と譲渡所得税の算出式は以下のとおりです。
- 譲渡所得=株式の譲渡価額-必要経費(取得費用+委託手数料など)
- 譲渡所得税=(譲渡所得 − 特別控除額)×税率
たとえば、譲渡価額が1,000万円、必要経費が200万円だったとします。
- 譲渡益:1,000万円−200万円=800万円
- 譲渡所得税:800万円×20.315%=162万5,200円
譲渡所得は分離課税なので、ほかの所得と損益通算できません。そのため、株式譲渡で赤字になったとしても、ほかの所得の課税分を減らせませんのでご注意ください。
非上場株式では、相続や贈与などの過程を経ていると株式の取得費用が不明な場合もあるので、譲渡価額の5%を取得費用として算出することになっています。
譲渡所得の構成内訳は以下のとおりです。
- 所得税:利益額関係なく15%が課税
- 住民税:利益額に関係なく5%が課税
- 復興特別所得税:所得税に対して2.1%の税率だが、株式の譲渡所得税率が15%なので、実質税率0.315%
法人税
2つ目は「法人税」です。
法人税とは、会社などの法人が利益を上げたときに課税される税金です。法人が時価よりも低い価額で、自社の株式を除く株式を取得した場合、時価との差額が受贈益として計上され、法人税の課税対象になります。非上場株式の譲渡益に対して累進課税方式であり、課税率は15%~42%の間で推移します。
法人税率にばらつきが出る理由は、法人の規模や所得金額によって適用される法人税が変わるからです。一般的に、資本金1億円以下の普通法人は、一定額までは15%、それ以外は23.2%です。法人の受け取るみなし配当は少し複雑なので、専門家に相談することをおすすめします。
相続税・贈与税
3つ目は「相続税・贈与税」です。
非上場株式を相続・贈与するときには相続税・贈与税が課税されます。累進課税なので、相続・贈与額が高いほど納税額は高くなります。
- 贈与税:暦年贈与と相続時精算課税贈与があり、暦年贈与税率は10~55%
- 相続税:亡くなった株式所有者の全財産債務と、誰がどれだけ取得したかで税額を算出する、税率は10~55%
しかし、高齢化により若い人への財産移転があまり進行していないため、以下のような相続税や贈与税に対する税負担の軽減措置をとっています。株式譲渡をするのであれば、税金の軽減措置が利用できないか確かめておくとよいでしょう。
贈与税の特例
贈与税の特例とは、非上場株式などの財産を親族に譲り渡す場合、贈与であれば一定額の控除が認められていることです。相続時精算課税制度を利用すれば、総額で2,500万円分まで非課税となります。
事業承継税制の特例
会社の非上場株式を相続・贈与すると同時に会社も引き継ぐ場合、その非上場株式に課税される相続税・贈与税は100%猶予されます。
相続税・贈与税の猶予を継続適用するためには、事業を5年以上維持するなどの制約がありますが、事業承継相手が親族でなくても適用されるので事業の引継ぎを考えている人にとっては大きな負担の軽減になる、使いやすい制度といえます。
寄付金扱い
4つ目は「寄付金扱い」です。
寄付金扱いとは、法人が適正価格よりも安い価格で社外の個人に渡したときに発生する損金のことです。寄付金扱いの損金は算入できるので、株式の売却額や税率によっては、株式譲渡による税金が安くなる場合があります。
みなし贈与課税
5つ目は「みなし贈与課税」です。
みなし贈与課税とは、個人間で株式を適正価格よりも著しく低価格(原則、相続税評価額未満)で譲渡した場合は、時価との差額について贈与したものとみなして贈与税が課されます。課税方法は贈与税と同じです。
みなし譲渡所得税
6つ目は「みなし譲渡所得税」です。
みなし譲渡所得税とは個人から法人へ株式を無償または著しく低い価額(原則、時価の50%未満)で譲渡した場合、利益が発生しなくても時価で譲渡したものとみなして課税される、課税逃れを防ぐための税金のことです。
非上場株式の譲渡の課税内容が変わるポイント
非上場株式の課税内容は以下の項目によって異なってきます。
- 譲渡人が個人か、法人か
- 譲受人が個人か、法人か
- 譲渡対価が「時価相当額」か「低額譲渡額」か「高価買入」に該当する」か
譲渡対価が、時価相当額である場合
1つ目は「譲渡対価が、時価相当額である場合」です。
時価相当額とは、該当するそれぞれの税法の規定に従って評価した譲渡時点における株式価値のことをいいます。非上場株式が買った値段よりも高い値段で売れた場合、非上場株式の譲渡によって譲渡益が生じたことになります。
譲渡人が個人だった場合
譲渡人が個人の場合、譲渡益に対して所得税と個人住民税が課税されます。譲渡益が発生しなかった場合は譲受人が課税されることはありません。
譲渡人が法人だった場合
非上場株式の譲渡によって譲渡益が生じた際、譲渡人が法人の場合、譲渡人はその譲渡益に対して法人税、地方法人税、および法人住民税が課税されます。譲渡対価が時価相当額である場合は、譲受人への課税は生じません。
時価と比べて著しく低い価額(低額譲渡)に該当する場合
2つ目は「時価と比べて著しく低い価額(低額譲渡)に該当する場合」です。
譲渡対価が「時価と比べて著しく低い価額」(低額譲渡)である場合における課税関係は次のとおりです。
譲渡人が個人の場合
譲渡人が個人の場合、課税の有無は基本的に時価譲渡の場合と同じですが、譲渡人だけでなく譲受人も課税されます。それぞれの譲渡する際の注意点と譲受人にかかる課税の違いは以下のとおりです。
譲渡人 | 譲受人 | 譲渡する際の注意点 | 譲受人にかかる課税 |
個人 | 個人 | 譲渡損が発生しても、ないものとみなす | 相続税法に基づき、譲渡対価と時価との差額に対して贈与税課税 |
法人 | 時価で譲渡したものとみなす | 譲渡対価の時価との差額に対して所得税および個人住民税課税 | |
法人 | 個人 | 譲渡対価と時価との差額において当該個人への給与や寄付金として損金不算入になる可能性がある | 譲渡対価と時価との差額に対して法人税、地方法人税、および法人住民税課税 |
法人 | 譲渡対価と時価との差額において当該法人への寄付金として損金不算入になる可能性がある |
時価と比べて著しく高い価額(高価買入)に該当する場合
3つ目は「時価と比べて著しく高い価額(高価買入)に該当する場合」です。
高価買入は時価よりも高い価額で譲渡することを指し、譲渡人に贈与税などが課税される可能性があります。ただし、現実的には、事業承継やM&Aで高価買入が生じることはほとんどないと考えられています。
まとめ
事業承継と非上場株式譲渡の税金について解説してきました。以下まとめになります。
- 非上場株式は基本的に多くの中小企業で採用され、経営者やその親族が保有し、債権者保護手続きを行う必要がないためシンプルで進行具合がスムーズ
- 現経営者が非上場株式を譲渡する際、課せられる可能性がある主な税金は、「譲渡所得税」「法人税相続税・贈与税」「寄付金扱い」「みなし贈与課税」「みなし譲渡所得税」
- 課税内容は「譲渡人と譲受人どちらが個人か法人か」「譲渡対価が時価相当額か低額譲渡額か高価買入りに該当するか」で異なる
事業承継を行う際に、会社を第三者に売却するということは、会社の株式を売却するということです。第三者だけでなく、従業員や親族に非上場株を売却した場合、多額の税金がかかることが多いです。非上場株式譲渡で生じる課税関係と評価方法は非常に複雑であり、間違えると譲渡人だけでなく譲受人も影響を受けるため、譲渡を行う際には税金に関する事前知識を身に着けておいてから専門家に相談することをオススメします。