事業承継には青色申告が非常に重要? 死亡後4ヵ月以内に提出しよう
事業承継後に経営者が亡くなった場合、相続または遺言による遺贈で相続人または受遺者たる後継者に相続税が課されます。後継者の事業用個別財産は相続の対象になります。一旦相続が発生すると、その後の手続きは煩雑で種類も多く非常に大変です。事業用個別財産は相続も評価額や相続する人を決定するなど、他の財産と同じ手続きが必要となります。事業承継に関する税務上の手続きにおいて、特に青色申告承継申請書の提出は非常に重要です。今回は先代が死亡後の事業承継に青色申告は重要であることについて解説します。
青色申告承認申請書
青色申告承認申請書の正式名称は「所得税の青色申告承認申請書」で、確定申告の時に青色申告をする場合は必ず提出しなければいけません。提出しなかった場合は、自動的に白色申告となります。
日本の所得税は、納税者が自ら税法に従って所得金額と税額を正しく計算し、納税するという申告納税制度です。
1年間に生じた所得金額を正しく計算して申告するためには、収入金額や必要経費に関する日々の取引の状況を複式簿記で記帳し、また、取引に伴い作成したり受け取ったりした書類を保存しなければいけません。
青色申告の制度は、一定水準の記帳をし、その記帳に基づいて正しい申告をする人には、所得金額の計算などについて有利な取扱いが受けることができます。
青色申告承認申請書は国税庁からダウンロード可能であり、必要事項を記入して納税地を所轄する税務署に郵送もしくは持参しましょう。
マイナンバーカードを使って、インターネット上から電子申請することもできます。
青色申告による控除額
青色申告をすることができる人は、不動産所得、事業所得、山林所得のある人です。それ以外(「給与所得」「退職所得」「譲渡所得」「利子所得」「配当所得」「一時所得」「雑所得」)は対象外となります。
青色申告をすることで10万円もしくは65万円の控除を受けることができ、さらに翌年に赤字を繰り越せるなど節税効果は高いです。
令和2年分以後の青色申告特別控除について、55万円の青色申告特別控除を受けることができる人は、電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告を行っている場合、65万円の青色申告特別控除が受けられます。
また、令和4年分以後の青色申告特別控除(65万円)の適用を受けるためには、その年分の事業における仕訳帳および総勘定元帳を優良な電子帳簿の要件を満たして電子データによる備付けおよび保存を行い、一定の事項を記載した届出書を提出しなければいけません。
不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいる青色申告者以外については、不動産所得、事業所得および山林所得を通じて最高10万円が控除されます。
青色申告承認申請書の各提出期限
青色申告承認申請書の各提出期限は以下の通りです。
区分 | 青色申告承認申請書の提出期限 |
すでに開業していて、白色申告から青色申告に切り替えたい場合 | 青色申告承認を受けたい年の3月15日 |
その年の1月16日以後に業務を新規で業務開始した場合 | 業務開始日から2ヵ月以内 |
その年の1月16日以後に業務を承継した場合 | 業務承継日から2ヵ月以内 |
被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の1月1日から8月31日) | 死亡日から4ヵ月以内 |
被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の9月1日から10月31日) | その年の12月31日 |
被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の11月1日から12月31日) | 翌年2月15日 |
提出期限を守って納税地の所轄税務署長に提出してください。
また、事業廃止などにより青色申告を取りやめる場合は、取りやめようとする年の翌年3月15日までに「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を納税地の所轄税務署長に提出してください。
準確定申告
準確定申告とは「死亡被相続人の所得税確定申告」のことを指します。
被相続人が提出した消費税課税事業者選択届出書、消費税課税期間特例選択等届出書または消費税簡易課税制度選択届出書の効力は、相続により被相続人の事業を承継した相続人には及ばないため、相続人がこれらの規定の適用を受けようとするときは、新たにこれらの届出書を提出しなければなりません。
準確定申告は1月1日から亡くなった日までの所得を計算し、相続が発生した日(死亡日)の翌日から4ヵ月以内に、申告書の提出を行います。たとえば、7月15日に亡くなった場合の準確定申告書の提出期限は11月15日になります。
準確定申告書の提出場所は「亡くなった人の住所地を管轄する税務署」が提出場所であり、相続人の住所地を管轄する税務署ではありませんのでご注意ください。
また、相続人全員が連帯責任を負うので、全員の署名と認印の押印が必要となります。
さらに、死亡被相続人が事業者の場合、所得税のほかに消費税についても1月1日から死亡日までの準確定申告が必要になります。
消費税の準確定申告についても所得税と同じく死亡から4ヵ月以内が申告書の提出期限になります。
準確定申告書の提出期限は死亡日から4ヵ月後が原則
準確定申告書の提出期限は、相続開始日によっては確定申告の提出期限を過ぎてしまう場合があります。
たとえば、令和3年12月10日に相続が発生した場合、準確定申告書の提出期限は4ヵ月後の令和4年4月10日となりますので、一般的な確定申告の提出期限である令和4年3月15日を過ぎてしまいます。
しかし、準確定申告書の提出期限の方が優先されるため、令和4年4月10日が提出期限になります。
また、確定申告書の提出を行う前に亡くなった場合、準確定申告が2回必要になるケースがあります。
たとえば、令和4年2月10日に相続が発生した場合、令和3年1月1日から12月31日までの所得と令和4年1月1日から2月10日までの所得を準確定申告で行わなければなりません。そのため、準確定申告書が2つ必要になります。
2つの準確定申告書の提出期限はどちらも亡くなってから4ヵ月以内となり、令和4年6月10日となります。
事業承継において、青色申告承継申請書提出は非常に重要
事業承継を行った場合、被相続人が青色申告により確定申告を行っていた場合であっても、新たに「青色申告承認申請書」の提出を行わなければ継承した事業所得を青色申告で行うことはできません。
被相続人が生前、青色申告を行っていた場合の青色申告承認申請書の提出期限は、相続開始を知った日(死亡の日)の時期に応じて異なります。
被相続人が9月以降に死亡した場合、青色申告承認申請書の提出期限までの期間が非常に短くなっています。
また、被相続人が白色申告であった場合で相続人が青色申告を希望する場合は、1月16日以後に業務を承継した場合、業務を承継した日から2ヵ月以内に青色申告承認申請書の提出が必要です。
提出期限を過ぎてしまうと、被相続人が亡くなった年の確定申告については白色申告で行うことになり、青色申告の恩恵を受けることができなくなってしまいます。
さらに、後継者の同居家族を(給料を払う予定の)事業専従者とする場合、青色申告承認申請届出と併せて青色事業専従者の届出も必要です。そうしなければ、給料を払っても事業上の経費として認められなくなってしまいます。
そのため、事業承継に関する税務上の手続きにおいて、青色申告承継申請書の提出は非常に重要といえるでしょう。
原則的に期限延長は認められていない
「令和3年2月2日から同年4月15日」までの間に期限が到来する死亡による準確定申告については、通常の確定申告と同様に新型コロナウイルス感染症による期間延長は認められましたが、準確定申告書の提出期限の延長は原則的に認められていません。
期限を過ぎた場合、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税というペナルティが加算されます。
無申告加算税
無申告加算税は準確定申告期限内に申告を行わなかったペナルティです。
・税務署からの指摘前に自主的に準確定申告を行った場合:本来の納税額の5%が加算
・税務署からの指摘後に申告を行った場合:税務調査が行われる前か税務調査が行われた後かによって税率が異なる
延滞税
延滞税は納税が遅れたことに対する利息のような性質のペナルティです。
準確定申告の納付期限の翌日から実際に納付を行った日までの日数に応じて計算され、税率は2ヵ月までの分と2ヵ月を超えた分の2段階で計算されます。
・2ヵ月以内の延滞税:年2.5%
・2ヵ月を経過後の延滞税:年8.8%
相続による事業承継には特例承認計画の提出が必要
相続による事業承継税制適用には特例承認計画の提出が必要です。
事業承継税制特例措置は、5年以内(平成30年4月1日から令和5年3月31日まで)の事前特例承継計画策定提出や、贈与・相続などの適用期限が10年以内(平成30年1月1日から令和9年12月31日まで)が設けられていますが、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃や納税猶予割合の引上げ(80%から100%)が適用されます。
しかし、事業承継税制特例措置以外の実質的な適用関係は先代経営者が死亡し、相続が発生したところから開始です。相続発生直後の不安定な状況のなか、後継者単独で5年以内に事前特例承継計画策定を提出し、継承期間を乗り越えるのは非常に大変です。そのため、相続よりも生前贈与の方に優位性があるといえるでしょう。
まとめ
事業承継と青色申告について解説してきました。以下、まとめになります。
・青色申告可能な人は不動産所得、事業所得、山林所得のある人であり、青色申告をすることで10万円もしくは65万円の控除を受けられ、さらに翌年に赤字を繰り越せる
・準確定申告とは「死亡被相続人の所得税確定申告」のことであり、提出期限は死亡日から4ヵ月後が原則
・被相続人が青色申告により確定申告を行っていた場合であっても、新たに「青色申告承認申請書」の提出を行わなければ継承した事業所得を青色申告で行うことはできない
先代が青色申告をしていたとしても、死亡後、後継者が新しく申告を行わなければ意味がありません。青色申告は手間がかかって大変ですが、それ以上のメリットがあります。
事業承継後に先代が死亡した場合、青色申告など税制上の申告を忘れずに行いましょう。