プッシュ型事業承継支援高度化事業とは? 活用方法紹介
中小企業の経営者が事業承継を行う際、事業承継アドバイザーやポータルサイトの活用といったサポートを受けることがあります。事業承継は経営者の築き上げたモノを引き継ぐというとても大切な作業です。
そうした背景から誕生したのがプッシュ型事業承継支援高度化事業です。
事業承継ネットワークとも言われるこの取り組みは、中小企業の事業承継をサポートするために中小企業庁が実施しました。
今回は「プッシュ型事業承継支援高度化事業」の取り組みと活用方法について紹介していきます。
「プッシュ型事業承継支援高度化事業」の目的
平成29年7月に中小企業庁が公表した事業承継5ヵ年計画が当取り組みの始まりです。
5年後の目指すべき姿を「地域の支援者同士が個別企業支援で連携できる地域プラットフォームを確立すること」として示し、その実現に向け取り組んできました。
取り組み内容は、早期・計画的な事業承継の準備に対する経営者の「気付き」を促すために、各都道府県で身近な支援機関から構成される「事業承継ネットワーク」を構築する事業を開始しました。
地域事務局の設置や事業承継コーディネーター、ブロックコーディネーターを配置し、経営者に対してプッシュ型で行う事業承継診断によって経営者の悩み・課題・ニーズを掘り起こします。そして、適切な支援機関に取り次いだり、必要に応じて地域の専門家による支援を実施しています。
プッシュ型事業承継支援高度化事業は、円滑な事業承継を推し進めることを目的にして、更なる事業承継支援に取り組むべく、構成機関によるプッシュ型事業承継診断を実施しています。承継コーディネーターやブロックコーディネーターがプッシュ型事業承継診断で掘り起こした事業承継支援のニーズがある中小企業に対して、事業承継計画の策定や課題解決のための専門家派遣など細部にいきわたる支援をします。
また、経営者保証に依存しない融資の後押しによる円滑な事業承継の促進を目的に、経営者保証の解除に向けた専門家による支援業務として各都道府県の事業承継ネットワークに経営者保証コーディネーターを配置しています。経営者保証に関するガイドラインに基づいた、中小企業と金融機関の目線合わせの支援にも取り組んでいます。
この取り組みは、近年の中小企業経営者の高齢化による後継者不在の問題からくるものです。これを放置すると貴重な技術をもった会社が廃業してノウハウが失われてしまい、多数の労働者が雇用を失ってしまいます。国にとっても大きな経済損失に繋がることになるため解決しなければならないものになります。
事業承継ネットワークの構成
プッシュ型事業承継支援高度化事業は、複数の機関・団体によって進められる事業です。
参加している機関・団体は大きく3つの役割に分けられて構成されています。
役割は「計画の立案」「事業承継診断等の実施」「その他支援策の実施」の3つです。
それぞれ見ていきましょう。
【計画の立案】
各都道府県・市区町村が地域の事業承継支援策を立案し、全体の取りまとめを行っています。
【事業診断等の実施】
構成メンバーは、金融機関・商工会・商工会議所・中央会・士業等専門家などが含まれ、中小企業に対して事業承継診断等を実施します。
【その他支援策の実施】
構成メンバーは、中小機構地域本部・事業引継ぎ支援センター・ミラサポ等の士業等専門家・経済産業局や財務局・信用保証協会・よろず支援拠点・再生支援協議会などが含まれ、中小企業に対して、以下のような支援策を実施しています。
・支援機関への研修実施
・M&A支援
・専門的課題を伴う案件への対応
・施策情報の提供
・金融支援
・再生支援
などを行います。
各都道府県によって、実際に行われる支援策は違いますので、正確な情報を知りたい方は、会社所在のエリアの情報をチェックしてみましょう。
プッシュ型事業承継支援高度化事業の内容
プッシュ型事業承継支援高度化事業は、「都道府県における事業承継支援体制の整備」「事業承継診断の実施(PDCAサイクル)」「事業承継支援に関する連携体制の構築」の3点を軸に実施されます。
【都道府県における事業承継支援体制の整備】
中小企業の事業承継について支援するためのネットワークを構築する事業を指します。
当事業は都道府県を主体に、事業承継支援の在り方について検討を行い、支援実現のための組織構築を目指します。また、関係者間での認識共有を行って、都道府県が地域再編と統合の旗振り役となれるように心がけています。
実施されている支援策の例として、事業承継ポータルサイトや事業承継の成功事例集を作成するなど、事業承継支援に関する情報発信を積極的に行っています。
実際の取り組みは、都道府県ごとに変わりますので、会社所在の情報をチェックしてみましょう。
【事業承継診断の実施(PDCAサイクル)】
事業承継診断とは、PDCAサイクルを意識した形で実施される経営者ニーズの掘り起こしを目的とした取り組みです。
1Plan:【計画】事業承継診断の準備として、事業承継ネットワーク内の支援機関が診断を実施できるようにフォーマットを作成します。
2Do:【実行】準備が出来たら、事業承継診断を実施してさらなる支援を行えるように仕組みを構築します。
3Check:【評価】事業承継診断の実施結果を集約して地域内における支援状況を検証します。
4Action:【改善】検証結果を公表し、再び事業承継診断の準備に戻ります。
この4項目を繰り返し行うことで、地域の支援状況の充実化、事業承継に悩む経営者のニーズを掘り起こして、ピンポイントのサポートや対応を可能にします。
【事業承継支援に関する連携体制の構築】
事業承継ネットワーク最大の特徴。
支援機関に対する情報共有・研修の実施、ミラサポなどの専門家派遣制度と連動した支援体制構築、各地域の専門家発掘・リスト化と支援関係機関での共有、プレ承継支援として経営改善を行うための環境整備といった連携体制構築の取り組みを行います。
プッシュ型事業承継支援高度化事業の活用(活動)事例
平成29年度に中小企業庁が公表し、これに賛同した都道府県・市区町村が独自の取り組みを行っています。
どのような取り組みがあるのか紹介します。
【岩手県事業承継ネットワーク事務局】
創業50年を超える老舗スポーツ用品小売業を経営する老夫婦は、二人きりで経営を行っており、長女に事業承継を行いたいと望み、具体的な事業承継方法が分からなかったため、地元の商工会に相談しました。
事業承継診断で、後継者の長女には経営の経験がなく、会社の収益性も低いために将来性がないことなどの課題が発見されました。
課題解決に向け、中小企業診断士を派遣、財務状況の把握・資産調査・SWOT分析を行い、具体的な経営改善策や事業承継に向けた課題整理といったサポートを受けながら事業承継実現を目指します。
【福島県事業承継ネットワーク事務局】
福島県の機械器具製造業を営む60代半ばの経営者。従業員数は30名以上、本社の他に3つの向上を所有しています。後継者候補は20代後半の親族で、親族内事業承継についての相談。
事業承継診断を実施、専門家を派遣し、ホールディングス化スキームの組織再編の提案が行われ、事業承継計画具現化のサポートを引き続き行っていきます。
【福岡県事業承継ネットワーク事務局】
福岡県の個人経営のラーメン店を長年経営指導していた方からの相談。
創業20年を超え、従業員数5名で、長男に事業承継を行いたく、また法人成りも検討していました。
解決策として、専門家を派遣、複数回の面接実施の末、個人事業のまま親族内承継をすることで話がまとまりました。
【石川県の事業承継ネットワーク事務局】
石川県では、県内企業を対象に記名式アンケートを実施、多くの回答を受け、個別相談にも支援センターやよろず支援拠点において対応しました。
さらに石川県は、経営者からヒアリングした課題解決を図るために、支援窓口の設置・ツールの整備・連携支援を行うためのルール整備などにも取り組む計画を立てました。
これにより、中小企業を直接的にサポートできる環境が整っていくことが期待されます。
【愛知県事業承継ネットワーク事務局】
愛知県では、ネットワーク構築の初期段階から学識者の力を借り、事業承継診断のスムーズな実施を実現しました。事前に事業承継診断マニュアルを作成するだけでなく、事業承継診断説明会を開催。金融機関と事務局の連携協定を結び、万全の体制を整え事業承継診断を実施しました。
また、支援機関のスキル要請・事例作成を目的に、トライアル支援も実施済みです。
各士業、商工会経営指導等がチームを組み、事業承継方針案の立案に携わることで、支援モデルの質向上を目指しています。
プッシュ型事業承継支援高度化事業のメリットと今後
中小企業庁が公表した平成29年度の段階では、事業承継ネットワークの取り組みは19都道府県のみでしたが、現在では全国で事業承継ネットワークの取り組みが行われています。
プッシュ型事業承継支援高度化事業の最大のメリットは、これまで事業承継に関する相談先がみつからなかった中小企業庁経営者が、事業承継に係る情報の提供や支援を受けることが出来ることです。
各地域によって支援内容は異なりますが、確実なサポートを受けることが可能になりました。
全国に根付いた事業承継ネットワークの取り組み内容が今後は、さらに細かく広く伸びていくことで、様々な事業承継方法に対応、支援を行っていけるようになるでしょう。
各地域で事例の紹介も行っており、協力してネットワークを広げていくことが重要です。
プッシュ型事業承継支援高度化事業とは?まとめ
以上、プッシュ型事業承継支援高度化事業の内容と事例を紹介しました。
今後もこの取り組みはさらに発展していき、事業承継に悩む中小企業に経営者を支援する体制が盤石のものなっていくでしょう。
事業承継に悩む経営者の方は、ぜひ事業承継ネットワークの活用を検討しましょう。